茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「そ、んな……だからあの時百子は……」
深山は呆然と呟いた。彼女が復縁を望まなかった理由は恐らく完全には飲み込めてはいないだろう。陽翔さえいなければとその顔に書いてあった。やはり反省の色は見えず、陽翔は頭を上げて深山を直視したことを悔やんだ。
(ああ言ったものの、きっかけがこいつの浮気ってのが腹立つ)
口では偉そうに言っていたが、陽翔の胸中は毛糸かもしくは麻紐が絡まっているように、深山や浮気相手に対して恨みやら怒りやらが複雑に渦巻いていた。それにも関わらず、それらの感情を出さなかったのは、出しても無意味だと心の片隅で感じていたのである。諦観にも近い感情が陽翔の怒りを中途半端に冷ましたのも理由だろうが。
(百子もこんな気持ちだったのか)
あの証拠映像の中の、毅然とした彼女の言葉が陽翔の頭を駆け巡った。あの時の百子の言葉は咄嗟に出なかった筈なのに、きっと今の陽翔と心情が同じようになっていたに違いない。
(そういえばあの時も……)
陽翔は再び追いすがってきた自身の記憶を無理矢理振り落とす。深山の口が開いたので、そちらに無理に意識を向けようとしたのだ。
「貴方の目的は何なのですか。俺に証拠をつきつけるためだけに、こんなまだるっこしいことはしないでしょうに」
陽翔は眉をピクリと動かす。深山は相当な屈辱を味わっているはずなのに、怒り狂うこともなく開き直ったからだ。もっとも早く話を終わらせたいからかもしれないが。
(話が早いな)
深山の面の皮の厚さと言ったら、きっと広辞苑よりも分厚いに違いない。とはいえ、長々とこんな胸糞悪い話を続ける必要がないと知ると安堵しても良かった。聞かされている深山が辛いのは自業自得だが、その話を持ちかけている陽翔の方が数倍も苦汁を舐めさせられている心地がする。
「百子と今後一切関わらないで下さい。貴方はたまたまとはいえ一度百子と会って復縁を迫ったそうですね? しかも怯える百子に無理矢理」
深山は思わず目を見張る。百子はペラペラと自分から自分の辛いことを言う人間ではないし、聞いても頑として口を割らないのだ。そんな強気な所に嫌気がさしていた深山だったが、木嶋はすぐに愚痴や不平不満を彼に聞かせるので、今になって百子が恋しく思えるのだ。
「百子がそれを言ったんですか」
「いいえ、百子が自ら話してくれました。昔から何でも辛いことを隠したがるのに、流石に彼氏からの裏切りが堪えたようで。そりゃそうですよね。熱で会社を早退して自分も住んでいる家に帰ってきたら、いつも寝てるベッドで彼氏が浮気相手と真っ昼間からおっぱじめてる所を見てしまって。しかもその件に対しての謝罪も何もなく、百子を言葉で傷つけた……! 貴方はどこまで百子を蔑ろにしたら気が済むんです!」
陽翔の拳が段々と白くなっていくのを、深山は他人事のように見ていた。
深山は呆然と呟いた。彼女が復縁を望まなかった理由は恐らく完全には飲み込めてはいないだろう。陽翔さえいなければとその顔に書いてあった。やはり反省の色は見えず、陽翔は頭を上げて深山を直視したことを悔やんだ。
(ああ言ったものの、きっかけがこいつの浮気ってのが腹立つ)
口では偉そうに言っていたが、陽翔の胸中は毛糸かもしくは麻紐が絡まっているように、深山や浮気相手に対して恨みやら怒りやらが複雑に渦巻いていた。それにも関わらず、それらの感情を出さなかったのは、出しても無意味だと心の片隅で感じていたのである。諦観にも近い感情が陽翔の怒りを中途半端に冷ましたのも理由だろうが。
(百子もこんな気持ちだったのか)
あの証拠映像の中の、毅然とした彼女の言葉が陽翔の頭を駆け巡った。あの時の百子の言葉は咄嗟に出なかった筈なのに、きっと今の陽翔と心情が同じようになっていたに違いない。
(そういえばあの時も……)
陽翔は再び追いすがってきた自身の記憶を無理矢理振り落とす。深山の口が開いたので、そちらに無理に意識を向けようとしたのだ。
「貴方の目的は何なのですか。俺に証拠をつきつけるためだけに、こんなまだるっこしいことはしないでしょうに」
陽翔は眉をピクリと動かす。深山は相当な屈辱を味わっているはずなのに、怒り狂うこともなく開き直ったからだ。もっとも早く話を終わらせたいからかもしれないが。
(話が早いな)
深山の面の皮の厚さと言ったら、きっと広辞苑よりも分厚いに違いない。とはいえ、長々とこんな胸糞悪い話を続ける必要がないと知ると安堵しても良かった。聞かされている深山が辛いのは自業自得だが、その話を持ちかけている陽翔の方が数倍も苦汁を舐めさせられている心地がする。
「百子と今後一切関わらないで下さい。貴方はたまたまとはいえ一度百子と会って復縁を迫ったそうですね? しかも怯える百子に無理矢理」
深山は思わず目を見張る。百子はペラペラと自分から自分の辛いことを言う人間ではないし、聞いても頑として口を割らないのだ。そんな強気な所に嫌気がさしていた深山だったが、木嶋はすぐに愚痴や不平不満を彼に聞かせるので、今になって百子が恋しく思えるのだ。
「百子がそれを言ったんですか」
「いいえ、百子が自ら話してくれました。昔から何でも辛いことを隠したがるのに、流石に彼氏からの裏切りが堪えたようで。そりゃそうですよね。熱で会社を早退して自分も住んでいる家に帰ってきたら、いつも寝てるベッドで彼氏が浮気相手と真っ昼間からおっぱじめてる所を見てしまって。しかもその件に対しての謝罪も何もなく、百子を言葉で傷つけた……! 貴方はどこまで百子を蔑ろにしたら気が済むんです!」
陽翔の拳が段々と白くなっていくのを、深山は他人事のように見ていた。