茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「百子が……辛いことを自分から話しただなんて……そんなことが……」

口をわななかせて愕然としている深山を見て、陽翔は少々胸を張った。

「俺は百子を心から愛してますから。辛いことほど打ち明けて欲しいし、力にもなりたいですし。貴方は弱味を見せられる相手ではなかったと、そういうことですね。もっとも、百子が貴方に何かを打ち明けたとて、貴方はそういうのを鬱陶しいと感じそうですが」

陽翔は百子を吐かせるために、彼女の体を弄ったことは棚に上げてにっこりと微笑む。

「浮気された側の人間がどれだけ苦しむか知ってますか。話し合いもせずに勝手に浮気され、勝手に家に浮気相手を招かれ、浮気現場を見た側の気持ちが想像できます? ああ、これは愚問でしたね。そんなことを想像できるような人が浮気なんてする筈がないですから。しかも浮気相手を一緒に住んでる家に連れ込むくらいですし。本当に反吐が出る」

「あれは……由佳、彼女が家に行ってみたいって言ってたからです。そしてあれは浮気じゃない! 彼女は百子と結婚してもそのまま関係を続けても良いと……!」

この期に及んで人のせいにしようとする深山に、陽翔は道端に這っている毛虫を見るかのような視線を向けた。

「浮気ではない? ご冗談を。その関係を貴方は他人に大っぴらに言えるのですか? ご両親やご兄弟、職場の人とかでもいいですが」

「それは……」

口ごもる深山に陽翔は吐き捨てる。

「言えないなら後ろめたいと思っているに他ならないでしょう。それに、貴方は彼女が提案したからと言ってますが、それでも招いたのは貴方だ。断るという選択肢もあった筈なのに」

言葉を詰まらせた深山に陽翔はさらに畳み掛ける。

「そして貴方は百子があの場にさえいなければとも言ってましたが、別にバレても問題無かったと思いますよ。貴方の行動を見てる限りは。本当にバレたくないのなら家に連れ込むなんてそんなリスクが高いことはしない筈です。貴方は後ろめたいと思いつつ、リスクが高い方をあの時選択した。それが事実です」

「それでも……」

「それでも、何ですか? 俺は貴方の行動に基づいた事実を話してるだけです。貴方の思いなんてどうだって良い。貴方は百子を裏切った、その事実はひっくり返りませんから」

陽翔は深山に言いたいことをほぼ言い切ったというのに胸が悪くなる一方だった。陽翔の脳裏に百子が泣いている姿と、もう一つの思い出したくもない記憶がちらつくからなのかもしれない。
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