茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
百子は彼の突然の告白に戸惑っていたものの、自分の中の違和感がほぐれていった。百子が陽翔の妹と一緒にいるのを彼の浮気と勘違いして、仲直りしたあの夜に、彼がひりひりするような寂しさを瞳にちらつかせ、まるですがりつくように自分を抱いたのかがようやく腑に落ちたのだ。そして百子もまた、訳もなく心にシベリアからの風が渦を巻いて襲いかかってきてしまい、陽翔を再び抱き締めた。しかし彼の体温が百子の手を、体を温めても、心に吹き荒れるカミソリの刃のようなその風は止まってくれない。

(まさか陽翔が私と同じような経験をしていたなんて)

百子は彼が元婚約者に裏切られた時の気持ちが手に取るように理解できてしまい、先程の陽翔に負けじとすすり泣く。陽翔はそれを見てしまったと思ったが、百子の背中に手を回し、ゆっくりと撫でたり、とんとんと労るように擦る。すすり泣きが大きくなり、時々しゃくりあげている百子だったが、少し心が落ち着いたのか涙混じりに何かを話し始める。

「はる、と……辛、かっ……た、ね……。しん、ど、かっ、た……ね。ほんと、に、信じ、らんな、い……! 酷い、よ……!」

涙に溺れる百子の声は聞いていて心が痛くなった。百子がここまで悲痛を全身で表しているところを見ると、元彼に裏切られた傷は未だに癒えていないのだと再確認せざるを得ない。それでも陽翔の過去の裏切りの話を聞く気になるその心根は健気と言わずして何と言えば良いのだろう。

(百子は優しいもんな……今だって俺の気持ちを理解して……こんなに泣いてる)

「別に百子程じゃないさ。期間も婚約して2ヶ月ほどだったし、百子が思うほど傷が深いもんでもない。百子と違って慰謝料もふんだくったし。まあ裏切られた事実は腹立つけどな。弁護士を立てて婚約破棄まで持っていくのがちと大変だったくらいか。証拠集めしてて胸が悪くなるから飯もほぼ食ってなかったこともあったな」

百子は涙を思わず引っ込め、一度陽翔から体を離して首を横に振った。

「そんなこと、ないと思う。陽翔は当時ものすごく苦しくて……しんどくて……それこそ発狂してしまうくらいは辛かったと思う。それに、お金もらってもそんな理由じゃ嬉しくも何ともないでしょうに」
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