茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
百子が自身の腰にしっかり腕を回したのを見届けると、陽翔は眉間の皺を伸ばす。彼の不機嫌が霧散して百子は一息ついたが、彼も百子の腰に手を回しているせいで、シャツ越しとはいえ彼の胸板や腹筋、そしてへその下に屹立する彼自身の熱を感じ取って百子はりんごもかくやと言うほど顔を赤くさせた。

(待って、これ恥ずかしい……)

いつもは彼が百子の腰に手を回すだけなのに、どうやら今日の陽翔はそれだけでは満足しないらしい。そして今日に限って通常よりも車内の人は少なく、体を寄せ合う二人は大変目立っていた。

(しかも恥ずかしいって言えないじゃない……! 周りの人がこっち見ちゃう!)

百子はハッとして顔を上げて陽翔を睨む。彼女の視線に気づいて彼は百子を見下ろし、したり顔を見せたので百子は無言でパンプスのつま先をげしげしと彼の足首にめり込ませる。どうやら百子が恥ずかしいと言えないことを織り込み済みで揶揄ってるという推測は当たってしまったらしい。しかも軽く蹴られているというのに、陽翔の無駄に爽やかな笑顔を歪ませることはついにできず、悔しくなった百子は彼の胸板の下にごつんと額をぶつけた。

(あっ)

しかし電車が駅に停車した弾みで百子の頭突きは外れてしまう。よろけた百子を陽翔が支え、そのまま腰を抱き寄せられながら降車し、道中も彼は彼女から腕を離さない。家のドアを閉めるや否や、百子は彼の熱くて深い口づけを受けた。舌を何度も絡ませていると、下腹部が熱くなって疼き、体の中心が潤み始めて百子の肩から鞄が滑り落ちて玄関に乾いた音が短く鳴る。

「な、んで……?」

唇が離され、銀糸がつかの間二人を繋いで消える。

「百子が可愛いことするから悪い」

陽翔は人差し指を自分の唇の前に持ってきていたが、すぐにそれを百子の唇の前に持ってきた。その一連の動作に何故か色気を感じてしまい、百子の心臓は跳ね回る。

「なっ……! それでも外で盛ることないじゃないの……ひゃっ」

目尻に彼のキスが降ってきて百子は思わず声を上げる。

「そんな蕩けた目をして言われてもな……よっと」

陽翔は百子の腰を引き寄せたかと思うと素早く横抱きにして彼女の靴を脱がせて自身も靴を脱いで玄関をあとにした。

「陽翔! 自分で歩けるって!」

「今は俺にもたれてろ」

有無を言わさない口調でピシャリと言われたので、百子はじたばたするのを止めておとなしく彼にしがみつく。
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