茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
そして彼は寝室を通過し、リビングのソファに彼女を降ろした。寝室に連れ込まれるかと思った百子は肩透かしを食らった気分になったが、陽翔は彼女に覆い被さって唇を強引に奪ったため、彼の折り重なる体温を甘く享受していた。彼の大きな手はいつの間にか百子の腰を撫で回しており、下腹部が否応なしに疼く。

「……ふっ……んん……」

彼の舌が絡まる度に百子の体は力が抜けていく。それを見計らったように彼の大きな両手はスカートの裾にするりと侵入し、上へ上へと探るようにうごめいた。

「やだ、陽翔……! 何してるの?」

「いいからじっとしてろ」

耳元で低く囁かれ、びくっとした百子は彼の手を止められず、あっという間にストッキングが自分の足から離れてしまった。いつもとはまるで違う様子に百子は顔を真っ赤にしながら口をわななかせる。

「陽翔?!」

そして彼女の驚きはまだ続く。彼がソファから離れて床に片膝をつき、百子の左足にそっと手を触れたからだ。跪く彼が百子の足に触れているのが何だか倒錯的で百子の心臓が破れんばかりに鼓動する。

「ああ……やっぱりな。百子、痛かったよな……」

陽翔は百子の左足の踵と左足の親指の小さな水ぶくれとその周りの赤を見て眉をしかめる。血は出ていなかったのが幸いだが、痛いのには変わりがないだろう。

「なんで……分かったの? いつから?」

「百子の足音がいつもより重かったからな。最初は疲れてるだけかと思ったが、歩き出す時に左足を庇っていたし」

百子は取引先の会社から帰る時に踵と足の親指が痛みを訴えているのに気づいてたが、絆創膏を切らしてしまったのと、大したことにはなってないだろうとたかをくくって放置していた。まさか駅で既に看破されてたとは思わず、百子は目をぱちくりさせる。

「だから電車の中であんなことを……」

百子のつぶやきに陽翔が頷く。彼の不機嫌な顔と、何がなんでも百子の腕を腰に回させた彼の行動の理由にようやく納得がいった。両方共彼にもたれかかる体勢になったので、周囲の目を気にして恥ではあったものの、足の痛みが軽減されていたのもまた事実だからだ。

(やだ……恥ずかしいわ……陽翔は私に気を遣って色々してくれたのに)

陽翔が体をくっつけて百子が恥ずかしくなる様子を見て楽しむためにわざわざ一連の行動をしていたと思い込んでいた彼女は恥じ入ってうつむいた。そんな彼女をよそに陽翔がポケットの中にある絆創膏で水ぶくれを覆ってくれたので、百子は感謝の言葉を述べる。
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