茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
鉄製の門をくぐると折れ曲がった階段があり、階段の角には桔梗が植えられている大きな鉢があった。花を一つしかつけていなかったものの、その優美な六角の花はつかの間百子の目を楽しませる。階段を登り切ると左手に小さな庭があり、ヒイラギの小さな木が植えられていた。
「家の中にも花はあると思うぞ」
百子の視線がもっぱら植物に向いていたことが陽翔にバレてしまったようで、陽翔は百子に向かって笑いかけながら玄関のドアを開ける。出迎える人がいると思った百子は玄関をくぐらずにいたが、陽翔は彼女の腕を掴んで玄関に招き入れてドアを閉めた。百子の持つ紙袋ががさりと音を立てる。
「ちょっ……」
「大丈夫だ」
家主の許可なく侵入してしまったことに罪悪感を感じて百子は陽翔を小突いたが、ドアを閉められた以上は諦めるしかなかった。勝手知ったる陽翔は靴を脱いでただいまと言いながら上がるが、百子の目は玄関に置いてある水盤に活けられている桔梗の花に釘付けになってしまう。
「百子、上がっていいんだぞ」
陽翔の言葉に、百子はかぶりを振った。
「えっと、私、ここの桔梗が見たいからここにいるわ。とても素敵だもの」
これは半分本当である。水盤に美しく活けられている桔梗の花々は百子の目と心を確実に潤すものだからだ。うだるような暑さをくぐり抜けた百子からしたら、すっきりと活けられた桔梗はオアシスに等しい。
「いや、上がれよ」
「だめ。私はここにいるわ」
百子は陽翔の伸ばされた腕をかいくぐって再び首を振る。インターフォンは応答があったのに、家主が出迎えに来ない、つまりは歓迎されていない事実を容赦なく突きつけられてしまった以上は、家主が諦めて顔を出すのを待つ方が得策だと思ったからだ。
「何を言って……」
陽翔は百子がただならぬ雰囲気を漂わせていたために、伸ばした手を力なく下ろして眉を下げ、リビングの方角を思わず睨む。ようやく陽翔も出迎えが無いのを不審に思ったのだ。そして自分の母が頑なな理由を図りかねて渋面を作る。どうやら百子の方がずっと賢明らしい。
「あら、陽翔。おかえり」
インターフォン越しに聞こえた硬い声の主は玄関に立ち尽くす百子を一切視界に入れずに陽翔に声を掛ける。百子は思わず息を呑んだ。
「ただいま、母さん。随分遅かったな。出迎えに来れないくらい忙しかったのか?」
百子は思わず女性に向かって頭を下げる。最初のうちから失礼な振る舞いをするのは何としてでも避けたかった。陽翔の母親からしたら百子はマイナススタートに他ならず、印象を悪化させることはしたくないのだ。
「家の中にも花はあると思うぞ」
百子の視線がもっぱら植物に向いていたことが陽翔にバレてしまったようで、陽翔は百子に向かって笑いかけながら玄関のドアを開ける。出迎える人がいると思った百子は玄関をくぐらずにいたが、陽翔は彼女の腕を掴んで玄関に招き入れてドアを閉めた。百子の持つ紙袋ががさりと音を立てる。
「ちょっ……」
「大丈夫だ」
家主の許可なく侵入してしまったことに罪悪感を感じて百子は陽翔を小突いたが、ドアを閉められた以上は諦めるしかなかった。勝手知ったる陽翔は靴を脱いでただいまと言いながら上がるが、百子の目は玄関に置いてある水盤に活けられている桔梗の花に釘付けになってしまう。
「百子、上がっていいんだぞ」
陽翔の言葉に、百子はかぶりを振った。
「えっと、私、ここの桔梗が見たいからここにいるわ。とても素敵だもの」
これは半分本当である。水盤に美しく活けられている桔梗の花々は百子の目と心を確実に潤すものだからだ。うだるような暑さをくぐり抜けた百子からしたら、すっきりと活けられた桔梗はオアシスに等しい。
「いや、上がれよ」
「だめ。私はここにいるわ」
百子は陽翔の伸ばされた腕をかいくぐって再び首を振る。インターフォンは応答があったのに、家主が出迎えに来ない、つまりは歓迎されていない事実を容赦なく突きつけられてしまった以上は、家主が諦めて顔を出すのを待つ方が得策だと思ったからだ。
「何を言って……」
陽翔は百子がただならぬ雰囲気を漂わせていたために、伸ばした手を力なく下ろして眉を下げ、リビングの方角を思わず睨む。ようやく陽翔も出迎えが無いのを不審に思ったのだ。そして自分の母が頑なな理由を図りかねて渋面を作る。どうやら百子の方がずっと賢明らしい。
「あら、陽翔。おかえり」
インターフォン越しに聞こえた硬い声の主は玄関に立ち尽くす百子を一切視界に入れずに陽翔に声を掛ける。百子は思わず息を呑んだ。
「ただいま、母さん。随分遅かったな。出迎えに来れないくらい忙しかったのか?」
百子は思わず女性に向かって頭を下げる。最初のうちから失礼な振る舞いをするのは何としてでも避けたかった。陽翔の母親からしたら百子はマイナススタートに他ならず、印象を悪化させることはしたくないのだ。