茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「今わざわざそれを言うのか? 俺はそんな話をするために百子を連れてきたわけじゃないぞ」

「本当のことを言ったまでよ。もう終わったことだし」

再び親子の応酬が始まって、百子は首を竦めて彼らの言葉を頭上に躱す。わざとなのか元々なのかは不明だが、陽翔の母の百子に対しての無礼で配慮に欠ける振る舞いを見ていると、自ずと彼女の目的が浮き彫りになってくる。百子が果たしてここにいても良いのかと疑問を感じてしまうのも無理もない。

「あら、驚かないのね。陽翔から聞いてたの?」

彼女は急に百子に話を向けてきたので、百子は一瞬だけ反応が遅れた。百子が首肯したのを確認した陽翔の母はゆっくりと告げる。

「それなら話は早いわ。陽翔は一度婚約破棄を経験してるの。だからこれからのお相手選びは慎重にならなければとこちらとしては思ってます」

「母さん! 何言ってんだ!」

「陽翔は黙ってなさい」

噛み付く陽翔を一言で黙らせた陽翔の母はきっぱりと言い放つ。

「悪いことは言わないわ。百子さん、陽翔と手を切ってくださいな」

(やっぱり……)

反対の言葉を突きつけられたことに対しては驚いてはいないのだが、やはり心が凍てついた氷で覆われているかのように重く、冷たく沈んでいく。百子は思わず回れ右をしたくなったが、逃げるために来た訳ではないと言い聞かせてその場にとどまる。

「勝手なことを言うな! 母さんに百子の何が……!」

「陽翔、私は百子さんとお話してるの。邪魔しないでちょうだい」

陽翔は口を一瞬だけつぐんだが、低い声で告げる。

「いいや、するね。あんなに百子に対して無礼なことをしておいて黙ってられるか! 百子に対する無礼は俺への無礼も同然なのに、わざわざそんなことをするなんてどうかしてる! 父さんも父さんだ。事前に伝えてあったのに遅刻なんてあり得ないだろ! 遠いところからわざわざ挨拶に来てくれてるんだぞ? そっちがそのつもりなら俺だっていくらでも無礼になっても問題ないはずだ! 俺も百子も時間を割いてるのに、そっちだけ守らなくてもいいだなんて、そんな屁理屈が通るかよ!」
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