茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「……大丈夫か?」

むすっとした彼女はそっぽを向いたが、彼の大きな手が顎を固定したため、今度は目を閉じる。すると唇に柔らかい感触が振ってきて、百子は思わず、自分の顎を掴んでいる彼の手を叩いた。

「陽翔、今日の行き先を教えてったら。遠いなら準備しないと」

陽翔は一瞬怪訝な顔をしていたが、昨日敢えて行き先を言わなかった理由を思い出した。

「家具屋に行く予定だ。俺達正式に婚約するんだし、今のうちに揃えておきたい物もあるからな」

百子は呆気に取られて目を見開き、ほんのりと頬を染める。確かに結納と両家顔合わせの日取りは確定しているが、それは3週間も先の話である。陽翔が自分との今後を考えてくれるのは何よりも嬉しいのだが、いくら何でも早すぎるのではないだろうか。

「家具……? 足りない物なんてあったっけ?」

陽翔は何故かここでニヤリとして、百子の耳元でゆっくりと囁く。

「ベットを買いに行こうと思ってな。このベットだと狭いだろ? ダブルならどっちかが遅く帰ってきたとしても一緒に寝られるからな」

先程は頬紅程度の血色だったのに、彼の発言で一気に百子は達磨よりも顔を赤くさせた。耳元で囁かれたというのもあるが、陽翔は百子と一刻も早く一緒に寝たいということを直球で伝えたからだ。しかも囁いた後に、わざと耳元で小さくリップ音を立てたため、百子はそれに素早く反応してしまう。

「ちょっ……陽翔、それならもう起きて朝ごはん食べないと。朝ごはん作り置きしてなかったし、今から作らなきゃ」

「ここから車で20分だから心配すんな。それに……」

陽翔はわざと自分の腰を、百子の太ももに密着させる。百子は陽翔の固い熱を感じ取って目を泳がせた。陽翔を起こすためにいたずらを仕掛けて、妙な達成感を感じていた筈だというのに、陽翔は萎えるどころか、先程上掛けをめくった時よりも滾っているのではないだろうか。

「百子が俺をけしかけたんだぞ? 俺は朝飯よりも百子を食いたい」

百子はしまったと思ったが既に遅い。起こすだけなら声を掛けるだけで良かったと今更ながら気づいたが、その叫びは陽翔によって甘い嬌声に作り変えられてしまい、結局体の奥深くに彼を迎え、声が掠れるまで心も体も甘やかされる羽目になったのだった。
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