茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
海底トンネルを抜けると、打って変わって明るい場所に出る。日本の森を模したエリアで、カワウソやオオサンショウウオなどの水槽があったが、陽翔は首を捻った。前回に行った時に、それがあったかどうかの記憶が定かではないからだ。

「水族館に森なんてあったか?」

陽翔が百子にそう問いかけるが、彼女は首を横に振った。百子の水族館での記憶は、淡い青が一面に広がる水槽と、そこで悠々と泳ぐ大きな魚達やイルカぐらいしかないのだ。

「うーん……覚えてない。だって泳ぐ魚というか、当時はジンベイザメの赤ちゃんが水族館デビューしてたから、その子の印象しかないもん。あとはイルカショーとかペンギンがいたくらい?」

「……俺と一緒じゃねえか。やっぱり子供の頃の記憶ってそんなもんか……オオサンショウウオがいたのは覚えてるが」

そう言って、陽翔はオオサンショウウオのいる水槽を指差す。百子はあっと声を上げた。

「オオサンショウウオ? ぬいぐるみでお顔は知ってたけど、実物も可愛いのね!」

はしゃぐ百子に、陽翔は思わず微笑みかける。様々な生き物の姿を見られるのも嬉しいのだが、それらを観察している百子を側で見られるのは、更に嬉しいのだ。流石にそれを彼女に告げるのは恥ずかしいので、喜ぶ彼女を尻目に、彼女と同じ物を見ていたが。

(最近忙しかったし、全然デートもできてなかったしな……少しは彼氏らしいこと、できてたらいいが)

彼女と手をつなぎながら、アマゾンの森エリアにも足を運び、体長が人間の身長よりもある大きな魚に驚いて足を止めていると、館内放送が流され、その内容に思わず二人は目を合わせた。

「陽翔、ここってカピバラなんていたっけ?」

「いや……多分俺達が小学生の時はいなかったと思う……カピバラのお食事タイム、見に行くか?」

百子は陽翔の提案に首肯し、足早にカピバラのいるエリアへと向かう。幸い次のエリアだったため、大して時間はかからなかったものの、見物客がごった返しており、カピバラの姿は見えにくかった。こちらにお尻を向けているのは見えたのだが。

(カピバラってネズミ……よね? あんなに大きいの?)

しゃがんだ飼育員とカピバラのサイズがあまり変わっていないように見え、百子は息を呑むが、カピバラが飼育員から与えられたりんごをもしゃもしゃと食べているところは見ていて和み、自然と顔の強ばりが解けていく。飼育員がカピバラの腰辺りを撫でていると、その場で寝転んだのも可愛らしい。
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