茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
百子はぼんやりと目の前の唐揚げ定食をつつく。久々に美咲と昼食を取れることを喜びつつも、今朝の件が頭にこびりつき、半ば機械的に箸を動かしていた。

「ももちゃん! ももちゃんったら! 味噌汁溢れるよ!」

ゆっくりと彼女に視線を戻し、彼女の指摘で味噌汁椀を傾けて持っていたことにようやく気づいた百子は、慌ててトレーにそれを置く。中の汁が少し跳ねたものの、服は汚れずにホッと息をついた。

「ありがとう、美咲……ちょっと今朝のことでぼんやりしてて……」

「……ももちゃんのちょっとって信用できないんだけど。いつもはご飯を嬉しそうに食べるのに、今日はそうじゃないし。ももちゃんが大好きな唐揚げで喜ばないとか、重症にしか見えないし」

図星を突かれて、百子は消沈して下を向く。午前の仕事は散々で、ありえないポカを10個ほど産出し、それを修正するのにえらく時間が掛かってしまったのである。何とか今日終わらせる分は終わったものの、えらく体力を消耗した気分になった。

「……そうね、ちょっとじゃないかも。今日陽翔を怒らせちゃって……」

困惑しきった百子は、今朝の顛末とその原因を彼女にぶちまける。百子の心を占めているのは、二人の結婚式のことだった。身内だけの式にすることは合意したものの、陽翔があまりにも結婚式にこだわりが無さすぎて、半ば百子に丸投げ状態だからである。あれこれ提案しても、百子の好きなのでいいとしか返って来ないのだ。彼女としては彼と一緒に考えたいのだが、調べる素振りも見せない陽翔が非協力的にしか見えず、百子の心にしこりを形成させていた。

それからというもの、陽翔の何気ない言動や、百子を心配する発言を聞くたびに、彼女の心の中は重く分厚い、今にも雷を落とさんとする積乱雲が立ち込めてしまうのだ。彼に八つ当たりするのが嫌な百子は、何とかしてそのイライラを抑えつけているのだが、その結果が今朝の陽翔の怒りを引き出してしまったのである。しっかり二人で話し合うべきだったのに、百子はそれから逃げてしまったのだ。陽翔が怒るのも当然である。

とはいえ、そこまで分かっていても、心に立ち込めた積乱雲は一向に晴れない。そんな小さなことでうだうだ悩むのも嫌なのに、考えないようにしても、ふつふつと湧いてくるそれに、百子は辟易していた。一部始終と自分の心の内を話し終えた百子は、水を一口飲んで深呼吸する。

「……そうだったのね。確かに男って結婚式に関してほんっと興味ないというか、無関心よね。それで私も何度か竜也とぶつかったし、竜也と結婚しても大丈夫なの?って不安にもなったわ。いわばマリッジブルーなんだけどね」
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