茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
☆R15
「……ううん、何もなかったよ。皆との打ち上げは楽しかったし! プロジェクトが終わったあとのお酒は美味しいし、今までの苦労が報われた感じがするもの」

だが百子は努めて明るく振る舞う。白米もかきこんで食べた百子はにこりと陽翔に微笑みかけた。昨日のことがショック過ぎたこともあるのだが、陽翔から振ってきたとはいえ、朝から嫌な話をするのも嫌だったのもある。今伝えれば気まずい空気になるのは目に見えていたし、陽翔を心配させてしまう。一人で抱え込むなとは言われているが、弘樹の言葉が酷すぎて、それを自分の口からは言いたくないのだ。

「ごちそうさまでした。今日はちょっと早めに処理しないとだめな仕事があるから先に行くね。食器だけは洗っておくわ」

陽翔より早めに食べ終わった百子は、そそくさと自分の食器を下げて洗い始める。陽翔もすぐに食べ終えて食器を下げたが、彼女の背後に回り込んで、逃げられないように彼女の食器を洗っている両腕を掴む。そして彼女の耳元で低く囁く。

「俺には言えないのか。お前玄関で大泣きしてそのまま寝ただろ。昨日何があったんだ」

百子はびくっとして思わず陽翔の顔を見た。いつも以上にその眉間の皺は深く、眼光も鋭い。百子がすぐに目をそらしてしまったので、陽翔は彼女の耳を軽く咥えた。

「ひゃんっ! べ、別に……泣いてない、もん……疲れて寝た、だけ……ああっ!」

陽翔がするりと百子の耳朶に舌を触れるか触れないかのタッチで触れて、思わず彼女は声を上げた。そのまま彼の小さなリップ音がしたと思えば、耳朶をゆっくりと舌がなぞる。その感覚にゾクゾクとしていた百子は、持っている食器を落とさないように一度シンクに置いてから、やや苛立たしげに口にした。

「ちょっと! 私は今日仕事に早く行かないと……っ!」

だがそれも陽翔の唇が首筋に移動してそのままキスされると、百子の言葉は途切れてしまう。いつの間にか陽翔の両腕は百子の胸の下に回り込んでおり、背中いっぱいに彼の体温を感じている。

「隠し事下手くそ過ぎ。昨日俺が帰ってきたらお前は玄関で寝てたから、ベットまでお前を運んだけど、顔に大泣きした跡があったぞ」

陽翔の片手が百子の太ももに伸びて、また小さく声を上げた百子だったが、ベットに運んでくれてありがとうとだけ口にする。陽翔は聞きたいことが彼女の口から全く出てこないでいるので次第にいらいらしてきた。

「礼はいらん。それより昨日泣くほど悲しいことがあったんだろ。早く言え」

陽翔の手が胸を触るか触らないかのタッチで触れ、わざと敏感な所を避けるようについと撫で始める。そして首筋をゆっくりと舐めると、百子の吐息混じりの声がした。

「いまは……っ、いえ、ないっ……」

「じゃあ吐くまでずっとこのままだぞ。お前仕事早く行かないと駄目なんだろ? ならさっさと吐け」
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