茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「ねむれるもりのおひめさまみたい……おひめさまはたしか……あいするひとのちゅーでめざめたよね。おにいさん、ちゅーしたらおきるかもよ?」
「美香?!」
章枝は素っ頓狂な声を上げたが、陽翔は考え込む素振りを見せる。荒唐無稽にも思えるが、試してみるのもやぶさかでないと判断した陽翔は、体を傾けて百子に口付けした。こんな時にも口付けで興奮する自分に嫌気がさしたが、久し振りの彼女の唇は柔らかくて温かく、意識が無くとも、百子はここにいると強く陽翔に思い知らされ、ひび割れた心が少しずつ癒えてきた。三人は息を呑んで見守っていたが、陽翔はやがて首を振る。流石に物語のように、都合良くはいかないらしい。消沈していた陽翔に、美香はぶんぶんと首を横に振った。
「だいじょうぶ! ミカがおねえさんがおきますようにっておまじないしたから! だからこのバラ、おねえさんにあげる! ふかいねむりからさめますように」
美香は折り紙で作った白薔薇ごと、彼女の右手をぎゅっと握って目を瞑る。しばらくそうしていた彼女だったが、ぴょんと跳ねて目を丸くした。
「あ! いま、おねえさんのてがピクってなった!」
「本当か?!」
陽翔もすかさず百子の左手を握る。彼女の言ったとおり、1度だけ、ほんの僅かではあるが、百子の指先が自発的に動いていたのだ。彼女の睫毛は動かなかったが、陽翔は感極まって涙ぐんだ。
「美香ちゃん……僕からもお礼を言うよ……ありがとう。美香ちゃんのおまじないのお陰だね。きっと百子も喜んでるよ。百子の見舞いに来てくれて、しかもプレゼントやおまじないまで……本当にありがとう……!」
百子が目覚めたら章枝に連絡することを約束し、二人は病室を辞していった。一人残された陽翔は、体を傾けて百子に口付けし、明日も来るとだけ告げて病室を出た。その後もできる限り彼女の顔を見に病院に通ったが、以前のように彼女のベットの側で嘆いてすすり泣くことはせず、手を握りながらその日にあった面白い出来事などを話し、帰る際には必ず口付けをした。深い眠りについているだけだと言い聞かせながら。
陽翔が彼女に会っている間、友人の美咲に、百子の両親と兄の冬治もそれぞれ見舞いに来ており、彼らにも百子の手を握るように促している。百子が反応を見せたのは、今の所美香と陽翔に対してだけなのだが、接触が多いと彼女の目覚めが早くなると踏んだのだ。
(百子の友人にも反応するようになったもんな)
百子の様子を見て泣きそうになっていた美咲は、百子からの反応が得られたことで、歓喜に震えていたのを陽翔は思い出す。その後で美咲に、結婚式のことはしっかり二人で話し合えと懇々と説教をされ、ぐうの音も出なかった彼は大いに反省をし、彼女に百子の目が覚めるのをいくらでも待つと約束した。しょげきった陽翔だったが、百子には良い友人がいることを素直に喜び、来る日も来る日も、陽翔は未だに固く目を閉ざしている彼女の元に通った。
「美香?!」
章枝は素っ頓狂な声を上げたが、陽翔は考え込む素振りを見せる。荒唐無稽にも思えるが、試してみるのもやぶさかでないと判断した陽翔は、体を傾けて百子に口付けした。こんな時にも口付けで興奮する自分に嫌気がさしたが、久し振りの彼女の唇は柔らかくて温かく、意識が無くとも、百子はここにいると強く陽翔に思い知らされ、ひび割れた心が少しずつ癒えてきた。三人は息を呑んで見守っていたが、陽翔はやがて首を振る。流石に物語のように、都合良くはいかないらしい。消沈していた陽翔に、美香はぶんぶんと首を横に振った。
「だいじょうぶ! ミカがおねえさんがおきますようにっておまじないしたから! だからこのバラ、おねえさんにあげる! ふかいねむりからさめますように」
美香は折り紙で作った白薔薇ごと、彼女の右手をぎゅっと握って目を瞑る。しばらくそうしていた彼女だったが、ぴょんと跳ねて目を丸くした。
「あ! いま、おねえさんのてがピクってなった!」
「本当か?!」
陽翔もすかさず百子の左手を握る。彼女の言ったとおり、1度だけ、ほんの僅かではあるが、百子の指先が自発的に動いていたのだ。彼女の睫毛は動かなかったが、陽翔は感極まって涙ぐんだ。
「美香ちゃん……僕からもお礼を言うよ……ありがとう。美香ちゃんのおまじないのお陰だね。きっと百子も喜んでるよ。百子の見舞いに来てくれて、しかもプレゼントやおまじないまで……本当にありがとう……!」
百子が目覚めたら章枝に連絡することを約束し、二人は病室を辞していった。一人残された陽翔は、体を傾けて百子に口付けし、明日も来るとだけ告げて病室を出た。その後もできる限り彼女の顔を見に病院に通ったが、以前のように彼女のベットの側で嘆いてすすり泣くことはせず、手を握りながらその日にあった面白い出来事などを話し、帰る際には必ず口付けをした。深い眠りについているだけだと言い聞かせながら。
陽翔が彼女に会っている間、友人の美咲に、百子の両親と兄の冬治もそれぞれ見舞いに来ており、彼らにも百子の手を握るように促している。百子が反応を見せたのは、今の所美香と陽翔に対してだけなのだが、接触が多いと彼女の目覚めが早くなると踏んだのだ。
(百子の友人にも反応するようになったもんな)
百子の様子を見て泣きそうになっていた美咲は、百子からの反応が得られたことで、歓喜に震えていたのを陽翔は思い出す。その後で美咲に、結婚式のことはしっかり二人で話し合えと懇々と説教をされ、ぐうの音も出なかった彼は大いに反省をし、彼女に百子の目が覚めるのをいくらでも待つと約束した。しょげきった陽翔だったが、百子には良い友人がいることを素直に喜び、来る日も来る日も、陽翔は未だに固く目を閉ざしている彼女の元に通った。