茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
木枯らしの侵入しない病院の中庭を歩いていると、女性は最初のうちこそ、赤面してもじもじとしていたが、陽翔があれこれ彼女の外見を褒めると、彼女は嬉しそうに色々話してくれた。とりとめも無い話ばかりではあったが、それが終わると彼女は陽翔について質問を始めた。
「東雲さんって、茨城先輩の恋人なんですか?」
「はい……そうなんです……でも色々話しかけても、何をしても3ヶ月も目が覚めなくて……それでずっと寂しいんです……このまま目覚めないと、どうなるんだろうって……それが不安で不安で……」
眉根をぐっと寄せ、顔を俯かせた陽翔に、柔らかな声が耳を撫でた。
「私だったら東雲さんをほっとかないのに。長い間目覚めないなんて、そんな東雲さんを悲しませることなんてしません。東雲さんにはもっといい人がいると思うんです」
彼女は陽翔の手を温めるように包み込み、上目遣いをして満面の笑みを浮かべていた。
「……つまり、貴女が百子の代わりになると?」
陽翔の声がほんの少しざらつくが、彼女の声は対照的に、弾んだものとなっていた。
「何で私が考えてることが分かったんですか? 私なら東雲さんを寂しい思いなんてさせません! 私、こう見えて尽くすタイプなんです」
陽翔は口角を上げたまま、甘さを含んだ声音で答えを唇に乗せる。
「それは素敵ですね。では是非……」
彼は一度言葉を切り、彼女に自身の顔を近づける。彼女は頬のみならず、顔全体を朱に染めていた。そして一瞬だけ彼女の目が左右に動き、やがて閉じられる。そんな彼女の耳元に、彼は低い声音を注ぎ込んだ。
「なーんて、俺が言うと思いました? 《《木嶋さん》》」
陽翔の呟きに、ビクッとした彼女は目を見開いて、一瞬目を反らす。表情が抜け落ちているのに、口角だけ上げている陽翔をちらりと見た彼女はあからさまに狼狽えた。
「え? 私、名乗りましたっけ……東雲さんみたいな素敵な人は、1回見ただけで忘れない筈なのに……もしかしてどこかで一度お会いしました?」
陽翔は口角を下げず、さらに低い声で言い募る。その目は全く笑っていなかった。
「さて、どこでしょうね? 図々しくも、百子の恋人をあっさり寝取った挙句、彼女の持ち物を無断で捨て、百子の心に傷を負わせた、忌々しい張本人さん」
「東雲さんって、茨城先輩の恋人なんですか?」
「はい……そうなんです……でも色々話しかけても、何をしても3ヶ月も目が覚めなくて……それでずっと寂しいんです……このまま目覚めないと、どうなるんだろうって……それが不安で不安で……」
眉根をぐっと寄せ、顔を俯かせた陽翔に、柔らかな声が耳を撫でた。
「私だったら東雲さんをほっとかないのに。長い間目覚めないなんて、そんな東雲さんを悲しませることなんてしません。東雲さんにはもっといい人がいると思うんです」
彼女は陽翔の手を温めるように包み込み、上目遣いをして満面の笑みを浮かべていた。
「……つまり、貴女が百子の代わりになると?」
陽翔の声がほんの少しざらつくが、彼女の声は対照的に、弾んだものとなっていた。
「何で私が考えてることが分かったんですか? 私なら東雲さんを寂しい思いなんてさせません! 私、こう見えて尽くすタイプなんです」
陽翔は口角を上げたまま、甘さを含んだ声音で答えを唇に乗せる。
「それは素敵ですね。では是非……」
彼は一度言葉を切り、彼女に自身の顔を近づける。彼女は頬のみならず、顔全体を朱に染めていた。そして一瞬だけ彼女の目が左右に動き、やがて閉じられる。そんな彼女の耳元に、彼は低い声音を注ぎ込んだ。
「なーんて、俺が言うと思いました? 《《木嶋さん》》」
陽翔の呟きに、ビクッとした彼女は目を見開いて、一瞬目を反らす。表情が抜け落ちているのに、口角だけ上げている陽翔をちらりと見た彼女はあからさまに狼狽えた。
「え? 私、名乗りましたっけ……東雲さんみたいな素敵な人は、1回見ただけで忘れない筈なのに……もしかしてどこかで一度お会いしました?」
陽翔は口角を下げず、さらに低い声で言い募る。その目は全く笑っていなかった。
「さて、どこでしょうね? 図々しくも、百子の恋人をあっさり寝取った挙句、彼女の持ち物を無断で捨て、百子の心に傷を負わせた、忌々しい張本人さん」