茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「美香ちゃんはお祖母様と一緒にちょくちょく見舞いに来てたぞ。その度に百子に折り紙でバラを作って、百子にプレゼントしてた。百子が目覚めますようにって毎回おまじないをかけてたな。流石に3ヶ月も起きないとは思ってなかったが」

そう言って陽翔は病室を見渡し、飾ってある薔薇に目を留める。百子も陽翔の視線を追って、彼の表情を真似ていたが、最後の言葉で体を銅像のように硬直させてしまう。

「……陽翔、ごめんなさい……私……陽翔のお母様に忠告されてたのに、また無茶をして……しかもそんなに長いこと陽翔に心配かけちゃって……」

下を向いてしまった百子に、深く長いため息が落ちてきて、彼女はビクッと体を震わせる。

「……本当にな。百子の怪我が軽いから安心してたが、意識が戻る兆しが無くて毎日毎日身が削れる思いだった。いくら呼びかけても、手を握っても、側で泣いても目が覚めない百子を見て、気が狂いそうになった。美香ちゃんが励ましてくれたから踏みとどまったものの、それが無かったらどうなってたか……」

百子は体を縮こませ、再び謝罪の言葉を述べるが、陽翔の静かなガミガミは止まらなかった。

「全く百子はいつもいつも……! 無茶をして自分が倒れたら意味がないだろ……! 百子が目覚めなくてどれだけ心配したか……! 医者からは4週間で意識が戻るって言われてたのに、その倍以上の間百子は目を覚まさなくて……どれだけ辛かったか……! なあ、百子! もっと自分を大事にしてくれ! 頼むから……!」

涙混じりの声がして、百子はあわてて顔を上げる。百子は再び謝罪をしようと口を開くが、視界いっぱいに陽翔の顔が広がり、声を上げることはできなかった。半開きの唇に、陽翔の舌がぬるりと侵入し、上顎を、歯列を丹念になぞり、引っ込んでいた百子の舌を探り当てていた。

「……んっ……ふ……」

百子の息が上がりそうになった段階で、陽翔の唇が離れ、銀の糸が束の間二人を繋ぎ、やがて静かに病室に溶ける。同時に陽翔の激情も一緒に溶けてしまうかと思われた。

「……陽翔、本当にごめんなさい……私、陽翔の気持ちを全然考えてなかった……あの時も陽翔の気遣いを無下にして、何も相談しなくてごめんなさい……不安だったよね……」

百子は瞳を僅かに潤ませたまま、陽翔に謝罪し、陽翔の方に両手を伸ばした。彼は顔を歪ませたと思うと、即座に百子を強くかき抱き、彼女の頭をゆるゆると撫でた。

「責めるような言い方をして悪い……3ヶ月前のあの日に、百子と喧嘩してそのままだったのを、俺はずっと後悔してたんだ……! あんな態度を取らなかったら、百子はすぐに目覚めてたんじゃないかって……!」
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