茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
百子は身を固くする。陽翔がまさかそこまで彼自身を責めて、目覚めを待っていたとは思いもよらなかったのだ。百子はおずおずと彼の背中に手を回し、広い背中をゆっくりと擦る。彼女の手の温もりがじんわりと染み渡り、それに誘われるかのように、陽翔は絞り出すように告げる。

「百子、ごめんな……! あの朝に怒鳴って……悩んでそうな百子の力になりたかったが、それを拒否されたって思っちまって……昼間にメッセージが来てたのも知ってたが、急な仕事が入って見られなくて……!」

陽翔の声が徐々に湿っぽくなり、百子を抱き留める腕に力が入り、百子も釣られて目尻に雫を溜めていた。陽翔のシャツをぎゅっと握りながら、百子は目を閉じる。溢れた涙が頬を伝い、陽翔のシャツに次々と吸い込まれていった。

「陽翔……こっちこそごめん……結婚式のことで悩んでて……でも自分だけでやらなきゃって思ってて……そっか、急な仕事なら見られなくても仕方ないよね……私を嫌いになったとかじゃなくて良かった……!」

陽翔は百子を一度自分から離し、勢い良く首を横に振り、彼女の両肩を掴んだ。

「そんなくらいで嫌いになる訳ないだろ! 百子がまた悩んでるのに、力になれない俺が情けなかっただけだ! 百子を嫌いになるなんてあり得ねえよ!」

百子は唇を噛み、頬を濡らす液体を乱暴に拭う。陽翔がすかさずハンカチで、百子の頬をそっと拭い、目尻に、唇にキスを落とした。

「ありがとう、陽翔……私、結婚式のことで悩んでたの……準備とか色々あってよく分からなくて……でも陽翔が忙しそうだから、自分だけでやらないとって思って……結局一人で溜め込んじゃったの……友達には結婚式は二人の問題だから、ちゃんと話し合えって言われた。昼間の話があるってメッセージは、そのことについて話すつもりだったの」

陽翔は美咲に同じような忠告を受けたことを思い出して息を詰める。そしてばつの悪そうな顔をして項垂れた。

「結婚式のこと、百子に任せっきりでごめん……ちゃんと俺も考えるから……一緒に計画していこうな。ちゃんと話し合う時間も作るし、無理なく予定も立てて、少しずつでも準備しような」

百子は陽翔の言葉に何度も頷き、体を震わせて彼を見つめていた。百子が3ヶ月前に相談できていたら、陽翔も自分もここまで苦しむことが無かったと思う反面、ずっと抱えたいた結婚式の件を、彼も考えてくれると判明した嬉しさの方が遥かに勝ったのだ。

「陽翔、ありがとう……! 嬉しい……!」

百子は陽翔の頬にそっと手を触れ、彼の顔を引き寄せて口づけをする。

「でもまずはリハビリから頑張らないと。早く陽翔と帰りたいし、仕事にも復帰したいし……」

百子が言い終わらないうちに、病室のドアがノックされた。
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