茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「美香ちゃんは折り紙上手だね。もし良かったら、今度でいいから折り紙教えてくれる?」

「うん! もちろん! きょうもおりがみもってきたの! おねえさん、いっしょにつくろ!」

美香は手提げをゴソゴソと漁り、折り紙を取り出して、百子に薔薇の折り方を実演しながら教えていた。百子はそれほど折り紙が得意ではないのだが、美香と一緒に折っているうちに、徐々に自分の手のひらに薔薇が咲き、屈託の無い笑顔を浮かべるようになった。

「美香ちゃんありがとう! おかげで可愛く折れたよ」

美香が大きく頷いてぴょんぴょんと跳ね、陽翔も章枝も釣られて微笑む。それぞれ折り紙を手にして、4人は薔薇だけでなく鶴やハート、手裏剣やだまし船といったものを作ってはそれらを見せ合う。

「……美香ちゃんも百子も、葛城さんも、なんでそこまできれいにできるんだ」

陽翔は手のひらに乗せている、緑色の何かを見て肩を落とした。蛙を作ったはずなのだが、その細長い形状はどう見ても蛇にしか見えず、額に手を置いて頭を緩く振る。
美香は陽翔に何を作っていたかを聞き出し、折り紙をもう一枚取り出して実演してみせた。

「おにいさん、こうするの」

テキパキと美香が手を動かすため、陽翔は要所要所で彼女に動きを止めて欲しいと要求し、彼女に間違いを指摘されたりして、美香にギリギリ及第点を貰える程度の蛙を手のひらで跳ねさせる。
百子は紫陽花を懸命に折っており、章枝はその手つきを好ましそうに見守った。時折章枝が折り方のコツを百子に伝え、百子が四苦八苦して紫陽花を完成させると、章枝は拍手をしてから新しい折り紙を手に取った。

「茨城さんはお花折るのが上手いのね。お花なら、こんなのもできるわよ」

そう告げた章枝が一番上手で、かつ作業が早かった。桃の花や菖蒲の花を1枚の折り紙で作ったり、くす玉やリースを作ったりして、皆の感嘆の息を一気に引き受けていた。そこからは何故か全員が無心に好きなものを折り始め、看護師がリハビリの時間を告げに来るまでそれは続いたのだった。
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