茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
嘘をつけなくて
百子は昼休みになっても陽翔のことが頭から離れない。百子としては朝にわざわざする話でもなかったので、もっと落ち着いた時に言おうと思っていたのだが、彼はどうやらそれが嫌だったらしい。仕事に早く行かないといけないと言ったのは、単にその話題から逸らすつもりだったのに、陽翔が食い下がってしまった事に驚いた。しかも自分が正直に話をするまで台所で事に及びかけるなんて想像もしておらず、思わず腹が立って彼をぶってしまった。
(さすがに叩いたのは駄目だったわ……でもあの時何て言えば良かったの……?)
陽翔は割としつこいのではないかと思い始めていた百子は、どういう風に自分の言葉を伝えたら良いか考えあぐねる。下手に話すと根掘り葉掘り聞かれそうだから言わないという選択肢を取ったものの、彼に触れられたところや、触れられたところが熱を持っていたことも思い出して顔をさっと赤らめる。
(もし……もしあのまま流されていたらどうなってたのかな……)
流されそうになったあの時の自分に若干の腹立たしさは感じるものの、触られて嫌な気持ちは感じられず、百子はひどく狼狽していた。
「ももちゃんお疲れ様! どうしたの? 何か落ち込んでる?」
「はひっ!」
その声に振り向くか振り向かないかのうちに、百子の首に冷たいものが当たって思わず変な声を出してしまった。後ろを振り向くと、お茶のペットボトルを持っていた、同期であり小学校からの親友の田代美咲がいたずらっぽい笑みを浮かべながらそこに立っていた。
「……うん、色々あって。美咲、もうクライアントからの電話応対終わったのね。先にちょっと食べちゃったけど、一緒にご飯食べよ?」
百子は自分の座ってる席の向かいを指して言う。それに頷いてみせた美咲は自分のお弁当を広げ始めた。
「色々? あ、彼氏のこと? そういえばあれからどうなったの?」
百子は苦い顔をしていたが、ポケットからメモ用紙を取り出し、そこに同棲していた元彼が浮気相手を連れ込んでいて別れたことを書き連ねる。休憩室には人がたくさんいるので、周りに聞かれたくないのだ。
「え! 嘘! わか……むーっ!」
美咲がよく通るその声でメモを読み上げようとしたので、百子は箸で摘んでた卵焼きを美咲の口に押し込めた。そして険しい表情で唇に人差し指を当てる。こくこくと頷く彼女を見た百子は、驚かれるのは仕方ないと考えているようで、咎める言葉は言わないようにした。
「事情が事情だからびっくりするのは分かるけど、気まずくなるから……ごめんね?」
美咲は次第に百子の元彼に怒りが湧いて、彼に対する罵詈雑言をぶちまけそうになったが、百子が制したことで、むっつりと口をつぐんだ。しかしそれも一瞬のことで、苦虫を噛み潰したような表情を隠さずに浮かべてため息をついた。
(さすがに叩いたのは駄目だったわ……でもあの時何て言えば良かったの……?)
陽翔は割としつこいのではないかと思い始めていた百子は、どういう風に自分の言葉を伝えたら良いか考えあぐねる。下手に話すと根掘り葉掘り聞かれそうだから言わないという選択肢を取ったものの、彼に触れられたところや、触れられたところが熱を持っていたことも思い出して顔をさっと赤らめる。
(もし……もしあのまま流されていたらどうなってたのかな……)
流されそうになったあの時の自分に若干の腹立たしさは感じるものの、触られて嫌な気持ちは感じられず、百子はひどく狼狽していた。
「ももちゃんお疲れ様! どうしたの? 何か落ち込んでる?」
「はひっ!」
その声に振り向くか振り向かないかのうちに、百子の首に冷たいものが当たって思わず変な声を出してしまった。後ろを振り向くと、お茶のペットボトルを持っていた、同期であり小学校からの親友の田代美咲がいたずらっぽい笑みを浮かべながらそこに立っていた。
「……うん、色々あって。美咲、もうクライアントからの電話応対終わったのね。先にちょっと食べちゃったけど、一緒にご飯食べよ?」
百子は自分の座ってる席の向かいを指して言う。それに頷いてみせた美咲は自分のお弁当を広げ始めた。
「色々? あ、彼氏のこと? そういえばあれからどうなったの?」
百子は苦い顔をしていたが、ポケットからメモ用紙を取り出し、そこに同棲していた元彼が浮気相手を連れ込んでいて別れたことを書き連ねる。休憩室には人がたくさんいるので、周りに聞かれたくないのだ。
「え! 嘘! わか……むーっ!」
美咲がよく通るその声でメモを読み上げようとしたので、百子は箸で摘んでた卵焼きを美咲の口に押し込めた。そして険しい表情で唇に人差し指を当てる。こくこくと頷く彼女を見た百子は、驚かれるのは仕方ないと考えているようで、咎める言葉は言わないようにした。
「事情が事情だからびっくりするのは分かるけど、気まずくなるから……ごめんね?」
美咲は次第に百子の元彼に怒りが湧いて、彼に対する罵詈雑言をぶちまけそうになったが、百子が制したことで、むっつりと口をつぐんだ。しかしそれも一瞬のことで、苦虫を噛み潰したような表情を隠さずに浮かべてため息をついた。