茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
黙ったままで早く唇奪って
「百子! 素敵じゃないの! やっぱりドレスはハイネックよね! 上品だもの!」

「確かにお上品だけど……さっきのロングスリーブのドレスも良かったわ。肩は少しだけ出るけど、上品なのには変わらないし」

「それならもっと前に着てたロールカラーも素敵なのに! 裕子さんだっていいと思うでしょ?」

「あのロールカラーは肌が見えすぎます! 百子さんは元々上品だから、それを引き立てるドレスがいいと思うの!」

百子はぎゃあぎゃあと熱弁している二人を見て、困惑したように微笑んだ。今日は千鶴と裕子、そして陽翔と一緒に前撮りのドレスとタキシードを試着しに来たのだが、百子のドレス選びが難航していた。陽翔のタキシードは、試着が10着程度で、恙無く決まったのは良かったのだが、百子の場合は18着も試着したが未だに決まらない。母二人の、百子のドレスのデザインを巡る攻防が激しいのが元凶であり、百子自身はよく分からずに、母二人の勧める通りに試着を続けていた。

「……百子の好きなのでいいじゃねえか」

陽翔が額に手を当てて、ボソリとそう呟くと、くわっと目を光らせる母二人の視線が唐突に突き刺さる。

「陽翔さん、分かってないわね! 娘の晴れ舞台なのに、会場や百子の体型や雰囲気に合ったドレスじゃなかったら、台無しになっちゃうじゃないの!」

「千鶴さんの言うとおりよ。陽翔は引っ込んでなさい」

(だめだこりゃ……)

文字通り頭を抱え、首を横に振って項垂れる陽翔を女性二人は視界の隅に追いやって、試着室に引っ込む百子を見守る。陽翔としてはどのドレスも百子に似合っているように見えたのだが、母二人からすると全て違うように見えるようで、ああでもないこうでもないと、それぞれの感想を戦わせていた。

(俺からしたら、全部同じに見えるんだが……それを言ったら袋叩きにあいそうだな)

喧々諤々と、延々ドレスの話が続いているが、百子自身の主張も弱い印象があり、それがドレス選びが長引いている原因だろうと陽翔は考える。百子は普段からそれほど服を持っておらず、基本的にはコンサバスタイルの、無難で着回しが効くような服しか着用しないのだ。そんな彼女がいきなりドレスを決めようとしているのなら、色々と迷って当然なのかもしれなかった。

(でも……母さんも、百子のお母様も……百子を大事に思ってるんだな)

百子はへとへとになっているかもしれないが、母二人がここまで真剣になるのは、まごうことなき彼女への愛情の証であり、陽翔は胸の内と目の奥に熱が灯る。そして百子に似合うドレスが見つかるように、試着室に向かって合掌した。
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