茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「茨城さん、よく似合ってますよ。このデザインが一番お綺麗かもしれないですね」

「ありがとう、ございます……」

(……ドレスの試着ってこんなに大変なのね)

百子は衣擦れの音をさせて鏡を覗き込み、ドレスを着るのに手を貸してくれた、ニコニコとしている女性と、疲労の色が濃く出ている、自分そっくりな女性を見やる。プリンセスラインで、肩のケープから胸元のリボン、バッグのリボンまでが流れるように繋がっているシルエットが印象的であり、優雅でいて上品なデザインなそれは、百子の好みのど真ん中ではあるが、彼女は首を振って下を向いた。

(……私がドレスに負けてる)

百子は半ばよろめきながら壁に手をつく。今日だけでもドレスを20着近く着たため、単純に疲労しているというのもあるが、ビスチェをつけているのも大きいのだ。ビスチェの締め付けは思ったよりも強く、いずれは内臓が口から飛び出すかと思われた。昼食を取って2時間は経っているものの、普段これほど締め付けられる機会はそうそう無いため、いつも以上に疲労が溜まっている。それだけにとどまらず、百子は今着ている好みのドレスに着られてる印象が拭えないため、本当にこれで良いのかという不安も付き纏っており、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積していた。

「茨城さん、大丈夫ですか?」

ドレスを着付けした女性が心配そうに声を掛けるので、百子は壁から手を離して、問題ない旨を告げる。うじうじと悩んでいた百子だったが、もうどうにでもなれという風に、試着室を出て三人の前に姿を現した。その瞬間、6つの瞳が一斉に見開かれ、百子の背中に冷や汗が伝う。

「……どう、かな」

押し黙る三人の沈黙が耐えられず、百子は声を僅かに震わせる。

「……素敵よ、百子! 多少肌は見えるけど、ここまで上品に纏まっているし、可愛いじゃないの!」

「ええ。ケープから背中と胸元のリボンまで繋がってるのが可愛いわ。百子さんはケープが似合うわね」

母二人にああだこうだと言われると身構えていた百子だったが、意見の一致にぽかんとしてから頬を染めていた。百子が女性陣から視線を外すと、陽翔とばっちり目が合い、さらに百子は顔を赤くしてしまう。

「……似合うな。可愛い」

陽翔は百子に負けないくらいに、顔に朱を塗りたくって、呆けたように呟いた。先程までは何を着ても似合うとしか言わなかった陽翔が、やや違った反応を見せたため、百子は驚きつつも歓喜に頬を、心を染めて、このドレスにしようと心に決めた。
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