茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「……そんなことがあったなんてね……最っ低! ももちゃんは何も悪くないのに! 家にそいつを持ち込むなんてありえないでしょ!」

人が多いので加減しながらまくし立てたものの、他にも何やらブツブツと呪詛のように元彼への罵詈雑言を呟いてた美咲は、再び呆れて大きなため息をついた。

「まあまあ……一応別れられたし大丈夫よ。クズな奴って分かってすっきりしたかも。ずっとそのまま付き合ってたらもっとしんどかったと思うし……まあ見たくもないものを見せられて腹立ったのは変わらないけど」

百子はため息混じりに、呆れを隠さずに口にしたが、弘樹をクズだと言うと何だか少しだけ心が軽くなったような気がして首を傾げた。元彼への未練はこんなに早く吹っ切れるものなのだろうか。

「え? それじゃあ今も元彼と顔を合わせながら生活してるの? それだとまずいんじゃ……」

「ううん。流石にそれ見た時はその場から逃げちゃった。あの事件から一度も帰ってないよ。大学の同期が泊まらせてくれたの。私が次に住む家を見つけて引っ越しするまでだけどね」

怒りの表情をあらわにしていた美咲は、百子のその言葉であからさまにほっとした表情を浮かべる。

「良かった……! そりゃ家には戻りたくないよね。その同期の人ってもしや男の人? その人のことで悩んでたとか?」

百子が朝の出来事を思い出しながら苦い顔で頷き、詳しい経緯や陽翔がしてくれたことをメモに書いて見せると美咲がはしゃぎ始めた。

「え! そんな展開あるんだ! いいなー! じゃあその人と付き合うとかそんな感じなの? めちゃくちゃ優しいし優良物件じゃない!」

百子は首を振った。元彼と別れて日が浅いのもあり、恋愛はしばらくするつもりがないのと、陽翔と恋仲になるイメージが自分の中で湧かないのもある。美咲はがっくりと肩を落とした。

「なーんだ……付き合わないのか……シチュエーションからしたら共同生活してたら愛が芽生えるとかありそうなのに。一つ屋根の下に住んでるならそのままイチャイチャしたりとかありそうー」

今朝がまさにそんな状態だったことを百子は黙っておいた。美咲は恋バナが大好きなので、この手のことを少しでも言うと全部話すまで離してくれないのだ。もっとも、イチャイチャというよりは、一方的に愛撫をされただけだったのだが。しかも若干流されそうだった自分に苛立ちすら感じている。

「悩んでるというか……喧嘩したというか。元彼と飲み会の後に会って泣きまくったまま寝ちゃったのがあの人にバレて、正直に理由を言うまで意地悪されたから、あの人をぶっちゃったの……それでやり過ぎたなって思うけど、あの時どうしたらよかったのかが分からなくて。私は朝からそんな話をして気まずくなりたくなかったから何も言わなかったんだけど……向こうは何だか違ったみたい。何が何でも私から引き出そうと躍起になってたもの」
< 23 / 242 >

この作品をシェア

pagetop