茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
予想以上に吸われる時の力が強く、百子は思わず歯を食いしばる。話には聞いていたため、妊娠中は陽翔にも協力してもらって、定期的に彼に胸の蕾を強く吸って貰ったというのに、まるでそれは児戯の域を超えなかったのだ。初乳の説明を助産師がしており、懸命に耳を傾けて覚えようとしたが、側で陽翔が熱心にメモを取っており、いくばくか体の力が抜いた。
(そうだ、背中を優しく叩いてあげないと)
初乳をたらふく飲んで、満足した彼女の背中をとんとんと叩くと、大人と同じ規模のげっぷが発せられ、陽翔と百子は驚いて彼女を見やる。
「そうだ、名前を呼んであげないと。名前決めるので、散々二人で話し合ったもんね」
背中を擦りながら、百子は陽翔に微笑みかけ、彼女を陽翔に預ける。陽翔は赤ちゃんを抱っこするのは20年以上振りであり、百子の手からぎこちなく彼女を受け取る。円な瞳とばっちり目があった陽翔は、ふっと微笑んで声音を和らげた。
「産まれて来てくれてありがとう、暁美。今日という日を、お父さんとお母さんはずっと待ってたぞ」
暁美と名付けられた赤ん坊は、大きなあくびをして口をむにゃむにゃと動かす。その動作の一つ一つが愛らしく、百子は暁美の頬をつついた。
「暁美、やっと会えたね。元気に産まれてくれてありがとう……!」
暁美は緩く手を動かし、百子はその手をそっと撫でる。すうすうと寝息を立てている暁美は、ついさっきまで雷鳴のように泣いていたとは思えないほど静かであり、舞い降りた天使を彷彿とさせた。
「寝ちゃったね……」
ふわふわとした和毛、ぷくぷくとした丸い頬、小さな手足を愛おしげに見つめる二人は、どちらともなく目を合わせ、ゆっくりと顔を近づけ、そして離した。瞳がとろんとしてきた百子は、ゆっくりと体を横たえ、間もなく寝息を立ててしまい、陽翔は眠っている彼女の唇に口づけを落とす。
「百子、お疲れ様。よく頑張ったな。暁美を産んでくれてありがとう……暁美も頑張ったな。俺達のもとに産まれて来てくれて、ありがとう……」
そして陽翔は暁美を撫で、大きくあくびをした。ふと時計を見ると、既に日付が変わっており、陽翔はどっと疲労感に襲われ、床に座り込みそうになるのを、なけなしの気力を総動員して踏みとどまる。そして陽翔は暁美をベビーベッドへと寝かせ、自らも簡易ベッドに横になる。すぐに眠りについた陽翔だったが、百子と共に、2時間おきの雷鳴のような泣き声に、しばし翻弄される羽目になった。百子は授乳を、陽翔はおしめを替える担当だったが、明らかに授乳の時間の方が長く、陽翔は役割を変われないことを悔やむ。
「母親って偉大だな……」
陽翔は眠い目をこすり、痛みに耐えながら授乳している百子を見やる。彼女も疲労が濃い筈なのだが、陽翔の数倍もしゃんとしており、心なしか顔つきも凛々しくなったように思う。母になった百子を、陽翔は眩しそうに見つめた。
「うん……母がどれだけ大変かは良く分かったかも……でも陽翔がいるから助かる。ありがとう」
「俺はおしめしか変えてねえよ」
しょんぼりとした陽翔に、百子は首を横に振ってみせる。
「いいのよ。それだけでも嬉しい。一人ではきっとできないと思うし……」
「子育ては授乳以外は俺でもできる。それに、二人で親になるって決めただろ? 何があっても、俺達ならきっと乗り越えられる。無理なことがあるのなら、助けてくれる所を探したらいいし、いくらでもやりようはあるしな。だから……百子、一人で悩まないでくれ。解決策を一緒に見つけていこう。そうやって、暁美の成長を見守ろうぜ」
陽翔は百子の額に口づけを落とし、そっと彼女を腕の中に招き入れる。白んでいく空は、やがて一筋の光を病室に迎え入れ、それはまるで暁美の誕生を祝福しているように、陽翔達家族を包み込んでいた。
(そうだ、背中を優しく叩いてあげないと)
初乳をたらふく飲んで、満足した彼女の背中をとんとんと叩くと、大人と同じ規模のげっぷが発せられ、陽翔と百子は驚いて彼女を見やる。
「そうだ、名前を呼んであげないと。名前決めるので、散々二人で話し合ったもんね」
背中を擦りながら、百子は陽翔に微笑みかけ、彼女を陽翔に預ける。陽翔は赤ちゃんを抱っこするのは20年以上振りであり、百子の手からぎこちなく彼女を受け取る。円な瞳とばっちり目があった陽翔は、ふっと微笑んで声音を和らげた。
「産まれて来てくれてありがとう、暁美。今日という日を、お父さんとお母さんはずっと待ってたぞ」
暁美と名付けられた赤ん坊は、大きなあくびをして口をむにゃむにゃと動かす。その動作の一つ一つが愛らしく、百子は暁美の頬をつついた。
「暁美、やっと会えたね。元気に産まれてくれてありがとう……!」
暁美は緩く手を動かし、百子はその手をそっと撫でる。すうすうと寝息を立てている暁美は、ついさっきまで雷鳴のように泣いていたとは思えないほど静かであり、舞い降りた天使を彷彿とさせた。
「寝ちゃったね……」
ふわふわとした和毛、ぷくぷくとした丸い頬、小さな手足を愛おしげに見つめる二人は、どちらともなく目を合わせ、ゆっくりと顔を近づけ、そして離した。瞳がとろんとしてきた百子は、ゆっくりと体を横たえ、間もなく寝息を立ててしまい、陽翔は眠っている彼女の唇に口づけを落とす。
「百子、お疲れ様。よく頑張ったな。暁美を産んでくれてありがとう……暁美も頑張ったな。俺達のもとに産まれて来てくれて、ありがとう……」
そして陽翔は暁美を撫で、大きくあくびをした。ふと時計を見ると、既に日付が変わっており、陽翔はどっと疲労感に襲われ、床に座り込みそうになるのを、なけなしの気力を総動員して踏みとどまる。そして陽翔は暁美をベビーベッドへと寝かせ、自らも簡易ベッドに横になる。すぐに眠りについた陽翔だったが、百子と共に、2時間おきの雷鳴のような泣き声に、しばし翻弄される羽目になった。百子は授乳を、陽翔はおしめを替える担当だったが、明らかに授乳の時間の方が長く、陽翔は役割を変われないことを悔やむ。
「母親って偉大だな……」
陽翔は眠い目をこすり、痛みに耐えながら授乳している百子を見やる。彼女も疲労が濃い筈なのだが、陽翔の数倍もしゃんとしており、心なしか顔つきも凛々しくなったように思う。母になった百子を、陽翔は眩しそうに見つめた。
「うん……母がどれだけ大変かは良く分かったかも……でも陽翔がいるから助かる。ありがとう」
「俺はおしめしか変えてねえよ」
しょんぼりとした陽翔に、百子は首を横に振ってみせる。
「いいのよ。それだけでも嬉しい。一人ではきっとできないと思うし……」
「子育ては授乳以外は俺でもできる。それに、二人で親になるって決めただろ? 何があっても、俺達ならきっと乗り越えられる。無理なことがあるのなら、助けてくれる所を探したらいいし、いくらでもやりようはあるしな。だから……百子、一人で悩まないでくれ。解決策を一緒に見つけていこう。そうやって、暁美の成長を見守ろうぜ」
陽翔は百子の額に口づけを落とし、そっと彼女を腕の中に招き入れる。白んでいく空は、やがて一筋の光を病室に迎え入れ、それはまるで暁美の誕生を祝福しているように、陽翔達家族を包み込んでいた。