茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
仕事が終わり、百子はスマホを見る。陽翔からは既に百子の会社の最寄り駅に着いたと返信があり、百子は今から行くことを伝えて足早に駅へと向かう。そこには何だか一回りほど小さくなっているように見える陽翔がおり、百子を認めると駆け寄ってきて深く頭を下げた。
「あの時はすまん……! ちゃんと俺が不安だったことを言えば良かったのに、お前が嫌がることを無理矢理しちまって……他所へは行くな! 俺の家から出て行かないでくれ……!」
彼の謝罪にわずかにたじろぐ百子だったが、彼が顔を上げると百子は首を振って陽翔の目をまっすぐに見た。
「ううん、いいの。私もちゃんとあの時に伝えるべきだったもん。朝から気まずい話題を出したら、ひょっとしたら空気が重くなるんじゃないかって思って……もっと余裕のある時間に話すって私も言えばよかったわ。今日泣いた理由を話すことにする。ごめんね、痛かったでしょ?」
陽翔は激しく首を振った。
「大した威力じゃねえから心配すんな……悪いのは俺だし……本当に申し訳無い……」
百子はしおしおとした様子の陽翔を見るのは初めてで、思わず吹き出してしまった。美咲の言うとおり、お互いが勘違いしていただけだった。小さく笑みを浮かべた百子を見た陽翔は、まるで救いでも現れたような顔をして口にする。
「じゃあ……俺の家を出ていくとかは無いんだな?」
百子は首を傾げる。そういえばさっきの謝罪の時にも家がどうこう言ってたが、どういうことなのだろうか。
「え? 別に出ていかないよ? まだ物件も決まって無いというか、探してもいいところ見つからないし……別にその程度で逃げようとかは思わないわよ……」
「……良かった。それならいい。でもずっと俺の家にいてもいいんだぞ。お前の荷物も運び込んでもいいし」
陽翔はしっかりとした声でそう言ったが、百子は首を振った。
「そんな厚かましいことはできないよ。東雲くんの独り暮らしを邪魔したくないし。でも決まったらちゃんと報告するね」
(……通じなかった)
陽翔はがっくりと肩を落とした。別に社交辞令でも気遣いでもなく、まごうことなき本心からの言葉であり、なんなら嫁に来いと暗に匂わせたつもりだったのだが、彼女には全く伝わらなかったようだ。
(まあいい……この1ヶ月の間に必ず堕としてやる)
「埋め合わせをしたいんだが、今から飯食わねえ? 行ったことないけど、お洒落なイタリアンの店なんだが」
百子の顔がぱっと輝くのを見て、陽翔はふっと笑って最寄り駅の方に顎をしゃくった。
「ほんと?! 嬉しい! どこどこ? 早く行こっ」
嬉しいのは本当だが、小さく鳴った腹の虫が聞こえるか不安になった百子はいつも以上にはしゃぐ。百子がここまで喜ぶとは思わなかったので、陽翔の笑顔はさらに深まった。
「お前昔から花より団子だよな。ここからあまり離れてないから、気に入ったなら通いやすいと思うぞ」
陽翔は百子の頭にぽんと手を乗せてから、例のお店へと彼女を案内した。
「あの時はすまん……! ちゃんと俺が不安だったことを言えば良かったのに、お前が嫌がることを無理矢理しちまって……他所へは行くな! 俺の家から出て行かないでくれ……!」
彼の謝罪にわずかにたじろぐ百子だったが、彼が顔を上げると百子は首を振って陽翔の目をまっすぐに見た。
「ううん、いいの。私もちゃんとあの時に伝えるべきだったもん。朝から気まずい話題を出したら、ひょっとしたら空気が重くなるんじゃないかって思って……もっと余裕のある時間に話すって私も言えばよかったわ。今日泣いた理由を話すことにする。ごめんね、痛かったでしょ?」
陽翔は激しく首を振った。
「大した威力じゃねえから心配すんな……悪いのは俺だし……本当に申し訳無い……」
百子はしおしおとした様子の陽翔を見るのは初めてで、思わず吹き出してしまった。美咲の言うとおり、お互いが勘違いしていただけだった。小さく笑みを浮かべた百子を見た陽翔は、まるで救いでも現れたような顔をして口にする。
「じゃあ……俺の家を出ていくとかは無いんだな?」
百子は首を傾げる。そういえばさっきの謝罪の時にも家がどうこう言ってたが、どういうことなのだろうか。
「え? 別に出ていかないよ? まだ物件も決まって無いというか、探してもいいところ見つからないし……別にその程度で逃げようとかは思わないわよ……」
「……良かった。それならいい。でもずっと俺の家にいてもいいんだぞ。お前の荷物も運び込んでもいいし」
陽翔はしっかりとした声でそう言ったが、百子は首を振った。
「そんな厚かましいことはできないよ。東雲くんの独り暮らしを邪魔したくないし。でも決まったらちゃんと報告するね」
(……通じなかった)
陽翔はがっくりと肩を落とした。別に社交辞令でも気遣いでもなく、まごうことなき本心からの言葉であり、なんなら嫁に来いと暗に匂わせたつもりだったのだが、彼女には全く伝わらなかったようだ。
(まあいい……この1ヶ月の間に必ず堕としてやる)
「埋め合わせをしたいんだが、今から飯食わねえ? 行ったことないけど、お洒落なイタリアンの店なんだが」
百子の顔がぱっと輝くのを見て、陽翔はふっと笑って最寄り駅の方に顎をしゃくった。
「ほんと?! 嬉しい! どこどこ? 早く行こっ」
嬉しいのは本当だが、小さく鳴った腹の虫が聞こえるか不安になった百子はいつも以上にはしゃぐ。百子がここまで喜ぶとは思わなかったので、陽翔の笑顔はさらに深まった。
「お前昔から花より団子だよな。ここからあまり離れてないから、気に入ったなら通いやすいと思うぞ」
陽翔は百子の頭にぽんと手を乗せてから、例のお店へと彼女を案内した。