茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
既に両親には連絡を入れていたものの、百子は律儀にインターフォンを鳴らす。いつもよりも少しだけ高い母の声がおかえりと告げるので、百子もただいまと返した。程なくして家のドアの鍵が開けられ、百子はドアを開ける。
「おかえり、百子。電話貰った時はびっくりしたわ。そちらの方が百子が言ってた……」
「はい。東雲陽翔と申します。お会いできて嬉しく思います」
スーツを着こなした陽翔は、まるで分度器で測ったようなきれいな礼をして、頭を上げた後に紙袋を差し出した。
「あの、お口に合わないかもしれませんが……」
紙袋の中身はデパートで買ってきたフィナンシェと煎餅だった。百子の父親はともかく、母親が甘いものをあまり食べないと百子に言われ、当初は洋菓子だけにするつもりだったのを見直したのである。
「あらご丁寧に……わざわざありがとう。さ、上がって下さいな」
陽翔はお邪魔しますと告げ、靴を脱いで後ろ手に靴を揃え、百子に先導されてリビングへと向かう。台所がリビングへ向かう途中にあるのだが、陽翔はそこで台所から出ようとしたごま塩頭の男性と鉢合わせした。
「あ、すみません……お邪魔しております」
陽翔はやや緊張しながらも、百子の父親を驚かせたことを詫びる。だが陽翔を見て目を丸くした彼は一テンポも二テンポも遅れてから反応した。
「いや、こちらこそ済まない。話はダイニングで聞こうか」
陽翔は彼に促されるままダイニングのテーブルについた。百子と彼女の母親は台所でお茶の準備をしているらしく、陽翔は彼女の父親と否が応でも向き合うこととなった。お互い何を話しても良いか分からず、重たい空気がダイニングを支配する。沈黙に耐えかねた彼女の父親はテレビをつけに行った。今週のニュースが纏めて放送されているものの、陽翔の頭には何も入って来なかった。
「貴方が百子の言ってた……」
「は、はい、そうです。東雲陽翔と申します。お会い出来て嬉しゅうございます」
このタイミングで話しかけられるとは思わず、陽翔はやや固い声で口にして礼をする。
「東雲……」
百子の父はその名字に何か思い当たることがあるらしく、再びその目を見開く。そして眉間の皺をデスバレーもかくやというほど深く刻んでいた。
「……もしや貴方は……」
彼が全て言い終わらないうちに、百子と百子の母親がお茶とお菓子を運んできた。お茶をそれぞれの目の前に置いたあと、百子は陽翔の隣に、彼女の母親は父親の横に座る。彼女をちらりと見やると、百子の沈んだ表情がやけに気になった。
「おかえり、百子。電話貰った時はびっくりしたわ。そちらの方が百子が言ってた……」
「はい。東雲陽翔と申します。お会いできて嬉しく思います」
スーツを着こなした陽翔は、まるで分度器で測ったようなきれいな礼をして、頭を上げた後に紙袋を差し出した。
「あの、お口に合わないかもしれませんが……」
紙袋の中身はデパートで買ってきたフィナンシェと煎餅だった。百子の父親はともかく、母親が甘いものをあまり食べないと百子に言われ、当初は洋菓子だけにするつもりだったのを見直したのである。
「あらご丁寧に……わざわざありがとう。さ、上がって下さいな」
陽翔はお邪魔しますと告げ、靴を脱いで後ろ手に靴を揃え、百子に先導されてリビングへと向かう。台所がリビングへ向かう途中にあるのだが、陽翔はそこで台所から出ようとしたごま塩頭の男性と鉢合わせした。
「あ、すみません……お邪魔しております」
陽翔はやや緊張しながらも、百子の父親を驚かせたことを詫びる。だが陽翔を見て目を丸くした彼は一テンポも二テンポも遅れてから反応した。
「いや、こちらこそ済まない。話はダイニングで聞こうか」
陽翔は彼に促されるままダイニングのテーブルについた。百子と彼女の母親は台所でお茶の準備をしているらしく、陽翔は彼女の父親と否が応でも向き合うこととなった。お互い何を話しても良いか分からず、重たい空気がダイニングを支配する。沈黙に耐えかねた彼女の父親はテレビをつけに行った。今週のニュースが纏めて放送されているものの、陽翔の頭には何も入って来なかった。
「貴方が百子の言ってた……」
「は、はい、そうです。東雲陽翔と申します。お会い出来て嬉しゅうございます」
このタイミングで話しかけられるとは思わず、陽翔はやや固い声で口にして礼をする。
「東雲……」
百子の父はその名字に何か思い当たることがあるらしく、再びその目を見開く。そして眉間の皺をデスバレーもかくやというほど深く刻んでいた。
「……もしや貴方は……」
彼が全て言い終わらないうちに、百子と百子の母親がお茶とお菓子を運んできた。お茶をそれぞれの目の前に置いたあと、百子は陽翔の隣に、彼女の母親は父親の横に座る。彼女をちらりと見やると、百子の沈んだ表情がやけに気になった。