茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
四人揃って席についたところで、テレビを百子が消し、百子の母が一番に口を開いた。

「それにしてもびっくりしたわ。急に見合いなんてしないとか言われて、しかもお相手を連れて来るなんて。今日は紹介してくれるんでしょう?」

百子はその言葉にうなずき、陽翔に自分の両親を紹介した。父が強張ったような、困惑しているような表情をしているのがやけに気になったが、それも仕方がないのかもしれない。世の中の父親というものは、娘の結婚相手や彼氏のことが気に入らないものである。

「改めまして、東雲陽翔でございます。百子さんとは結婚を前提にお付き合いしており、同棲もしています」

結婚という言葉に百子は顔を赤くし、母は目を見開き、父はあんぐりと口を開けていた。

「結婚を前提に……? それならもっと早くに報告なさいな。心配したのよ? 百子が行き遅れになるかもしれないって。女性は30歳になったら価値が一気に下がるから、誰も貰い手が無かったらどうしようかと気を揉んでたのよ」

(お母さん、相変わらずね)

百子はため息をつきたくなるのを懸命に堪えた。母は口では百子のことを心配しているが、単純に行き遅れている娘が恥ずかしいだけなのではないかと勘繰ってしまう。

「東雲さんとはいつから同棲を?」

「半月くらい前からよ」

「やっぱり《《前の人》》とは上手くいかなかったのね」

百子はびくっとして笑顔の母を見た。弘樹との同棲が破綻したことはまだ言ってもないのに、何故母が知ってるのだろうか。だが百子は3ヶ月前ほどに一度だけ身内に同棲が上手くいっていない旨を話したことを今になって思い出した。

(まさか……)

「お母さん……兄さんから聞いてたの? 私、まだその話してないのに」

「そうよ。冬治にあんたが全然連絡寄越さないから、百子はどうしてるか聞いたの。そしたら同棲してるけど上手く行ってないとかそんなことを聞いたわよ」

「……別にお母さんに報告しなくたって良かったのに」

百子は今ここにいない兄をこっそり毒づく。以前友達が連絡先を勝手に他の人に教えてしまい、その人からいきなり連絡が来たのと同じような不快感がべったりと心臓に貼り付いてきた。

「あんたが連絡寄越さないから助かったけどね。あんたよりも冬治の方が優秀だから、親の心を良く分かってるわ」

百子の顔がこわばり、陽翔の眉がピクリと動く。彼は百子の両親に発言の許可を求めると、百子の両親が頷いたので、陽翔はきっぱりと言った。

「百子さんは優秀ですよ。家事をテキパキとこなしますし、会社でもプロジェクトのリーダーをやってる程ですし。それに、百子さんは私を一人の自立した人間として見てますよ。そんな百子さんと一緒に暮していると幸せなんです。だから私から結婚を申し込みました。百子さんを私は心から愛しています。百子さんと二人で幸せな家庭を築きたい……いいえ、百子さん以外は考えられないのです」
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