私の幸せ

「ハァ……」

詩織はキーボードを打つ手を止め、眼鏡を外して目頭を揉んでいく。仕事から帰って来た父親がよくしていた行動を今自分がしていることに、詩織は一瞬顔に笑みを浮かべた後、またパソコンのキーボードに手を置いた。

詩織は今、来週の会議の資料を作っている最中である。本来は詩織ではなく別の同期がやる予定の仕事だったのだが、今日の午後に熱を出して早退してしまった。病院に行った結果、公欠扱いされる病気に罹っていることが判明したため、来週出社することはできない。そのため、詩織が資料を作成しているのだ。

「あと半分……」

詩織はチラリと時計を見る。何とか終電には間に合うようにしたいところだ。気を取り直してパソコンの画面を見た時、「まだ残ってんのかよ」と声を掛けられた。振り返らずとも、刺々しい声で誰なのかはわかる。

「何か用事？もう帰ったんじゃなかったの？」

詩織はキーボードを打ち込みながら綾人に訊ねる。すると、デスクの上に会社近くのコンビニで買ったのであろうコーヒーが置かれた。