私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
ハンバーガーが来るまでのあいだ、ポテトを摘まむ。

「もしかして、フォークがいるとか言う?」

からかうように彼が右の口端を少し持ち上げる。

「さすがに言いませんよ」

こんなところでは手で食べるものだって、私だってわかっている。

「ふーん、そうなんだ」

コマキさんの声は意外そうだった。

「あの。
お金……」

「いいって。
今日は悪い子なんだろ?だったら奢らせておけ」

「あいたっ」

彼が長い指で私の額を軽く弾く。
僅かに痛むそこを、手で押さえた。

「でも、悪いです……」

「はぁっ」

ため息を落とされ、なにか怒らせたのかと縮こまる。

「お兄さんはちんけな会社の社長さんだけど、女の子をひとり、悪いことさせてあげられるくらいには稼いでるの。
だから、気にするな」

彼の手が伸びてきて、また額を弾かれるのかと身がまえた。
しかし。

「えっ。
ちょっと、やめてください!」

しかしコマキさんは私の頭を、まるで犬かなにかのようにわしゃわしゃと撫で回した。

「……子供扱い」

すっかり拗ねて、行儀悪くストローを吹いてコーラをぶくぶくとさせる。
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