私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
でも、ベーデガー教授が一緒なのはわからない。

『それってどういう意味ですか』

『言葉通りの意味だけど?』

意味ありげに彼が、眼鏡の下で片目をつぶる。
言葉通りの意味だと言われても、私にはわからない。

『凛音のそういうところ、僕は好きだよ』

「はあ」

なにがおかしいのか、彼はくすくす笑っている。
そういうところとはどういうところなんだろう?
でも、なんとなく面倒な事態になりそうだというのだけは、そこはかとなく感じた。



午後からも仕事をこなし、今日も定時で帰る。

「お疲れ様でございました」

「ミドリさんもお疲れ様です。
帰り、街に寄ってもらっていいですか」

「かしこまりました」

迎えの車に乗り、携帯を確認する。
そこには炯さんからメッセージが届いていた。

「夜中には帰ってくるんだ」

三時くらいには日本に着くから、それから本宅に帰ってくるとある。

「そんな無理、しなくていいんだけどな……」

本宅よりもマンションのほうが断然空港に近い。
その分、ゆっくりできるはずだ。
画面に指を滑らせ、その旨、返信した。

調べておいた老舗文具店でボールペンを物色する。
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