私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
幸せな、私たちの未来の計画。
これがずっと続くと思っていたのだけれど――。

『凛音?』

不意に男性の声が聞こえてきて、炯さんの話が止まる。
そちらを見ると背の高い男性が立っていた。

『凛音じゃないか!
こんなところで会えるなんて偶然だな』

彼はその長い足で、私のいるテーブルまで一気に距離を詰めてきた。
なんで彼がこんなところにいるんだろう?
って、普通にお茶に来ていてもおかしくないか。

『え、えーっと……。
こんにちは、ベーデガー教授』

炯さんの反応をうかがいつつ、曖昧な笑顔で彼――ベーデガー教授に挨拶をした。

「凛音、この方は?」

ちらりと、しかし確実に不機嫌に、炯さんの視線がベーデガー教授へと向かう。

「職場でお世話になっている、ベーデガー教授です」

たぶん、この紹介で間違っていないと……思う。

『お世話になっているなんて、そんな。
お世話になっているのは僕のほうだよ』

私に通訳しろとベーデガー教授が目で言ってくる。
けれど。

『そうですか。
妻がお世話になっているようで』

炯さんはドイツ語で返し、優雅に会釈をした。
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