私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
『妻?
婚約者だと聞きましたけどね』

小馬鹿にするように笑い、いいと言っていないのにベーデガー教授が勝手に私の隣に座ってくる。

『籍は入れていないだけで、もう妻も同然ですよ』

にっこりと炯さんは笑ってみせたが、その笑顔は作りものめいていた。

「凛音。
そろそろ行こうか」

行こうかと言われてもまだ、スイーツは残っている。
しかし彼には有無を言わせぬ雰囲気があった。

「あっ、はい!」

炯さんの雰囲気に気圧され気味に、慌てて立ち上がる。

『それでは、失礼いたします』

『ベーデガー教授、失礼します』

『ああ』

私たちを見送るベーデガー教授は、鼻白んでいるように見えた。

炯さんに手を引かれて歩く。
掴まれている手が痛い。
きっと炯さんは怒っている。

「あの。
炯……」

「ああっ、くそっ!」

人気のないところで立ち止まり、彼は唐突に悪態をついた。

「余裕のない俺、かっこわりー」

呟くように言ってため息をつき、彼が私を振り返る。

「ごめんな、凛音。
まだ全部食べてなかったのに」

そっと私の腰を抱いてきた炯さんは、いつもの優しい彼に戻っていた。

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