私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
「いいですよ、別に気にしてないですし」

「よくない。
……そうだ。
今日はこのまま、ここに泊まろうか。
それで夜は、フレンチ」

もうその気なのか、炯さんはフロントへ向かっていっている。

「嬉しいですけど、フレンチのフルコースはお腹に厳しいです……」

「ハーフコースにすればいいだろ」

ちゅっと軽く私にキスし、炯さんはフロントで部屋を取り始めた。
その横顔をそっと盗み見る。
もしかしてさっきは、ベーデガー教授に嫉妬していたんだろうか。
だとしたら、嬉しいな。

夕食のときに、準備していたボールペンを炯さんに渡した。

「凛音から俺に?」

差し出した小箱を、彼が驚いて受け取る。

「その。
初めてのお給料でなにかプレゼントしたくて」

なにを言われるのかわからなくて、彼の返事を待つ。

「……嬉しい」

ぽそりと呟かれた言葉が耳に届き、顔を上げる。

「大事にするな」

眼鏡の下で目尻を下げ、空気に溶けるみたいに炯さんが笑う。
……ああ。
この人が好きだ。
私を大事にしてくれる、炯さんを愛している。
でも、炯さんはどうなんだろう――。

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