私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
運転席の窓を開けた彼と、キスを交わす。
それだけで頑張ろうって気になるのはなんでだろう?

仕事はいつもどおりといえばいつもどおりだった。

「ハイ、凛音」

今日は貸し出し業務に就いていたら、ベーデガー教授が返却にやってきた。

『一昨日はびっくりしたよ。
あんなところで凛音に会うんだもんな。
これはもう、運命か?』

彼が私に片目をつぶってみせるのを、なんともいえない気持ちで見ていた。

『……ただの偶然です』

それ以上でもそれ以下でもないはずだ。

『そうか?
偶然だとしてもやはり、運命だと思うけどな』

おかしそうにくすくすと笑う彼を軽く睨んでしまったが、私に罪はないはずだ。

『用が済んだのなら……』

……早くどこかへ行ってほしい。
なんて私の希望は、虚しく潰える。

『用ならあるぞ。
また、凛音に文献を探してほしくてな』

『わかり……ました』

それならば仕事なので、断れない。
彼から出る要望をメモに書き留めていく。

『文献探しは凛音に頼むのが一番いいんだよな』

ベーデガー教授はそれが正解だとばかりに頷いているが。
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