私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
『私は別に。
ただ、ドイツ語ができるから、他の方より教授の要望が汲み取りやすいだけです』

それ以外に他の人よりも私が優れている点なんてない。
他の人が私と同じくドイツ語ができるか、教授が日本人だったら、私なんかよりもずっと優秀なはずだ。

『いや。
凛音はこちらが求めた以上のものを持ってきてくれるからな。
前回だって』

とんとんと軽く、彼は返却に来た本の山を叩いた。

『頼んだ以外の本も入っていたが、これが大変役に立った。
本当にありがとう』

ベーデガー教授の目尻が下がり、眼鏡の陰に笑い皺がのぞく。
それにどきどき……なんてまったくしない。
が、仕事を褒められて嬉しいのは事実だ。

『いえ。
業務ですから』

しかしそんな気持ちなどおくびにも出さず、素っ気ない態度を取った。

『〝ツンデレ〟?っていうんだっけ?
凛音のそういうところ、僕は好きだよ。
じゃあ、頼んだね』

ひらひらと軽く手を振りながら教授がいなくなり、ため息が漏れた。
なんなんだろう、あの人は。
私はツンデレじゃないって。
だいたい、ベーデガー教授に対して、少しもデレたりしていないではないか。

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