私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
「ベーデガー教授、なんだってー?」

憂鬱な気持ちで返された本の手続きをしていたら、島西さんが声をかけてきた。

「いつもどおり、本を探してきてほしいですよ」

それ以外になにもないはずだ、うん。

「ふーん」

島西さんはニヤニヤ笑っているが、本当にそれ以外ないですって。

定時になって仕事を上がる。
ベーデガー教授の依頼は二、三日中でいいとのことだったし、職場でも明日したらいいよと言ってくれたので、明日に回した。

「凛音様、今日はご機嫌ですね」

「そ、そうかな」

迎えに来たミドリさんが、車のルームミラー越しにちらりと私をうかがう。

「はい」

そうか、わかっちゃうかー。
炯さんがしばらくこちらにいるということは、今日は家に帰ってくるってことだ。
夕食も一緒だし、そのあとも一緒。
それだけでこんなに嬉しくなっちゃうのはなんでだろう。

家でそわそわと炯さんの帰りを待つ。

「ただいま」

「おかえりなさい」

帰ってきた彼が私にキスしてくれる。
それだけで、幸せな気持ちになった。

「んー、今日も仕事を頑張ってきたか?」

「はい、もちろんです」

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