私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
その気遣いはとても嬉しくて、彼に対する好感度が上がった。
しかしながら問題はそこではないのだ。
歌は別に下手ではない。
けれど歌える曲があるのかどうかというのが問題なわけで。

「その……。
童謡、……とかもあるんでしょうか……?」

「は?」

一音発し、眼鏡の向こうで彼の目が真円を描くほど見開かれる。

「まさか、最近の歌を知らない?」

恥ずかしながらそれに頷いた。

「テレビとか……は俺もあまり観ないが、動画配信とか観ないのか?」

「テレビは教育放送とニュースくらいしか見ないですし、携帯も父が入れたアプリ以外、使用禁止だったので……」

「マジか」

さらに彼の目が大きく見開かれ、目玉が落ちてしまわないか心配になるほどだ。
でも、その驚きは当然だと思う。
観るもの、聴くもの、読むもの、すべて親に制限されてきた。
おかげで私は、戦前のご令嬢のように育っていた。

「んー。
じゃあ、これはどうだ?」

少し悩んで操作したあと、彼が端末を見せてくる。
そこにはモモエという歌手の曲が表示されていた。

「あっ、これなら知ってます!」

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