私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
なんか最近、ベーデガー教授専任になっている気がするが、気のせいだろうか。
ドイツ語ができるからといわれればそれまでだけれど。

「ベーデガー教授のところへ持っていってきまーす!」

「あ、城坂さん」

部屋を出ようとしたところで声をかけられ、足を止めた。

「そのままあがっていいよ。
もう時間だし」

「あっ、はい。
ありがとうございます……」

壁に掛かった時計はもうすぐ私の定時になろうとしている。
図書館は大学構内でも奥まったところにあり、戻ってこなくていいのはいつもならば嬉しい。
しかし教授のところに行ってあがりなのは、なんか嫌な予感がするのはなんでだろう?

「よいしょ」

鞄と一緒に本を抱える。
ちなみに通勤用の服や鞄は街のファッションビルで買ってもらった。
そうやってできるだけ、一般人に擬態している。

ベーデガー教授の部屋の前に立ち、一度ため息をついてからノックした。

『ベーデガー教授、頼まれていた本をお持ちしました』

『入ってー』

『しつれいしまーす』

すぐに返事があり、中へ入る。
教授は私のところへ来て、本を受け取ってくれた。
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