私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
『よかったらこれも食べてねー』

いつものように焼き菓子……ではなく、今日はケーキが出てきた。

『あの、これ、どなたかのために用意していたんじゃ……?』

『いや?
今日くらいに凛音が来るんじゃないかと思って準備してた。
今度こそ絶対に、お茶に付き合ってもらおうと思ってね』

「はぁ……」

自分の分のケーキを手に、彼が斜め前に座る。
ケーキにフォークを刺し、彼はひとくち食べた。

『うん。
日本はスイーツも美味しいよね。
ほら、凛音も食べなよ』

嬉しそうに教授が、ふにゃんと締まらない顔で笑う。
なんかそれで、気が抜けた。

『じゃあ……いただきます』

そろりとケーキを引き寄せて、食べる。
刺さっている飾りのカードは、大学のカフェに入っているケーキ店のものではなかった。
どこかからわざわざ買ってきたのかな。

『日本に赴任してきてわからないことばかりで戸惑ったけど、凛音に出会えたのはよかったな』

ベーデガー教授が眼鏡の向こうで目を細めて私を見る。

『私は、別に。
普通に仕事をしているだけで』

それ以外に彼の役に立っているところなんてないと思う。

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