私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
『僕と普通にドイツ語で話してくれるだけで嬉しいよ。
ここはわざわざ僕を招いたというのに、ドイツ語がまともにできる人間がほとんどいないからね』

物憂げに彼がため息をつく。
それには苦笑いしかできなかった。

『それに嫌な気持ちになっても、凛音の笑顔を見たら吹っ飛ぶんだよね』

教授が意味ありげに私に微笑みかける。
いくら鈍い私でも、それがなにを意味するのかくらい、わかる。

『私は普通に教授と接しているだけで、別にそこに特別な感情などありません』

やんわりと、しかしはっきりと気持ちには応えられないのだと伝えた。

『わかってるよ。
そうやってきちんと断ってくる凛音が、僕は好きなんだし』

けれど彼は理解したうえで、さらに攻めてくる。

『結婚は半年後……いや、もうあと四ヶ月か。
とにかくそれまでは凛音は一応、フリーなわけだし、その間に頑張って落とすよ』

自信満々に彼は、私のほうの目をつぶった。

『いえ、フリーではないですが……』

『書類上はフリーだろ?
それに略奪婚って燃えるねぇ。
あ、今は寝取られっていうんだっけ?』

< 133 / 236 >

この作品をシェア

pagetop