私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
第八章 ワルイコトにピンチです
炯さんの勧めもあって、ベーデガー教授の件は職場に報告した。

――しかし。

「個人の恋愛問題には口出しできないよ」

「えっと……」

年配の男性上司は困ったように笑い、そう言ってきた。
この人は本気で、こんなことを言っているんだろうか。

「……その気のない女性にキスしてくるのは、あきらかなセクハラだと思いますが」

怒りで身体が震える。
それでも怒鳴りそうになるのを抑え、できるだけ冷静に伝えた。

「え?
でも城坂さんもベーデガー教授に言い寄られて、まんざらでもないんでしょ?
お菓子とかもらってるし」

けれど彼にはわからないらしく、少し意外そうに驚いている。

「それは……」

お世話になっているお礼だと自分よりも立場の高い人に言われ、断れるだろうか。
それに毎回、私は困っているとこぼしていたのだ。
どうしてそれを、事実を歪めてこんなふうに捉えられるんだろうか。

「とにかく、僕らはなにもできないからね。
城坂さんで解決して。
それに教授の機嫌を損ねるとかあってはいけないからね」

これで話は終わりだとばかりに彼が邪険に手を振る。
きっと本音はそこなのだ。
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