私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
しかし、少なくとも島西さんは怒ってくれていて、安心した。

下谷(しもたに)さんに連絡してみなよ。
もしかしたらどうにかしてくれるかもしれない」

うん、うん、と島西さんが頷く。
下谷さんとは派遣会社の担当さんだ。
そうか、彼に掛けあうという手があるのか。

「今日、終わったら連絡してみます」

「うん、そうしなよ」

少しだけ先行きが明るくなった気がして、心が軽くなった。

「でも、ベーデガー教授に仕事を頼まれたら困るよね」

ふたり同時にはぁーっと物憂げなため息が落ちていく。

「とりあえず、図書館内ではできるだけふたりっきりにならないように気をつけるよ。
お届けも私が代わってあげられたらいいんだけどね……」

はぁーっとまた、彼女の口からため息が落ちる。
島西さんはドイツ語どころか英語もおぼつかないので、ベーデガー教授との会話が難しいのだ。

「それでも、助かります」

精一杯の気持ちで頭を下げた。
上司の対応を目の当たりにしたときはどんよりとした気分だったけれど、少なくとも味方はいる。
まだ、絶望するには早い。



< 169 / 236 >

この作品をシェア

pagetop