私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
先輩スタッフに促され、仕方なく本を抱えて事務所を出る。
重い足を引きずってベーデガー教授の部屋へと向かった。
もしかして島西さん以外のスタッフは全員、ベーデガー教授から何らかの供与を受けているんだろうか……?
などと私が疑っても、おかしくない。

『ベーデガー教授、ご依頼の本をお持ちしました』

『入ってー』

留守にしてくれていればいいのにと願ったが、ノックするとすぐに中から声が返ってくる。

『……失礼します』

おそるおそる部屋に入ると、ベーデガー教授がこちらに向かってきているのが見えた。

『ご依頼の本です!
じゃあ!』

手近な棚に叩きつけるように本を置き、速攻で出ていこうとする。

『待って!』

しかし私がドアを開けるよりも早く、彼の手が私の手首を掴んだ。

『あれから大丈夫だった?』

教授の声は心配そうだが、そもそも原因を作ったのは彼だ。
なのに、白々しい。

『彼に酷いことをされなかったかい?』

離してくれと手を振るが、彼の手は離れない。

「は、離して……!」

恐怖で身体が硬直する。
また、無理矢理キスされるんじゃないか。
いや、キスだけならまだいい。
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