私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
身体に力を入れて立とうとするが、すぐにぺたんと座り込んでしまう。

「失礼いたします」

「うわっ」

困って彼女を見上げたらいきなり抱きかかえられ、慌ててその肩に掴まった。

「あっ、ま……」

「……ああ」

去っていく私たちを止めようとした男性職員を、ミドリさんが振り返る。

「この件、三ツ星の若社長の耳にすでに入っておりますので、そのおつもりで」

「ひっ!」

小さく悲鳴を上げて、その場にいた人間のほとんどが棒立ちになったけれど、なんでだろう……?
ミドリさんは車に私を乗せて運転席に座り、すぐに出した。

「すぐに旦那様のところへお連れします」

「……うん」

シートの上で膝を抱え、丸くなる。

「本当に遅くなって、申し訳ありませんでした」

「……ううん。
来てくれて、ありがとうございます」

あのままだったら、どうなっていたんだろうか。
まさかあんなところでという気持ちはあるが、わからない。
でも、あの音とミドリさんに助けられた。

もう安心していいんだってわかっているけれど、身体の震えはいつまで経っても止まらない。
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