私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
ミドリさんは運転しながら、炯さんに報告をしているようだ。
ミドリさんが私を連れてきたのは自宅でもマンションでもなく、炯さんの会社だった。

「凛音……!」

苛々と裏口で待っていた炯さんが、車が止まった途端に抱き抱えるようにして私を降ろしてくれる。

「とりあえず俺の部屋へ行こう」

炯さんに抱っこされたまま、移動する。
人払いでもしてあるのか、社長室に着くまで誰にも会わなかった。

「なんか飲むか。
落ち着くぞ」

私をソファーに下ろそうとした彼に、きつく抱きつく。
そのまま、離れないでと胸に顔をうずめたまま首を振った。

「……わかった」

小さくため息をつき、炯さんは私を抱いたままソファーに座った。

「大丈夫か?
って、大丈夫じゃないよな」

大好きな彼の香りに包まれ、ようやくまともに息ができる気がする。
厚い胸板に、酷く安心する。
しばらくその状態でいて、ようやく落ち着いた。

「すみません、お仕事の邪魔をして」

そろそろと離れて顔を見上げると、炯さんは指先で私の目尻を拭った。

「仕事よりも凛音が大事に決まってるだろ」

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