私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
レンズの向こうから真っ直ぐに私を見ている瞳は、揺るがない。
しかし、妻を娶ってもかまう暇がないなどと言っていた人間とは思えない台詞だ。
けれどそれだけ、自分は炯さんに愛され、大事にされているのだと胸が熱くなった。

私が落ち着き、炯さんはコーヒーを淹れてくれた。
しかも私がリラックスできるようにか、ミルクを入れた甘めのコーヒーだ。

「それで。
なにがあった?」

飲み終わり、一息ついたところでさりげなく彼が聞いてくる。

「……その。
抱きつかれ、て」

「抱きつかれたぁ?」

不快そうに炯さんの語尾が上がっていく。
これはまた、彼の嫉妬スイッチを押してしまったのかと思ったものの。

「……そうか、抱きつかれたのか」

乾いた笑いを落としながらコーヒーを飲む、彼の手は震えている。
もしかして、前回を反省してものすごく我慢してくれている?

「それで凛音から、別の男のにおいがするんだな」

その言葉で、びくっと身体が震えた。
やはりまた、烈火のごとく嫉妬に狂うんだろうか。

「凛音に移り香を残していいのは、俺だけだ」

カップを置いた彼が、再び私を抱き締めてくる。

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