私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
「とりあえず、上書きしておかないとな」

まるでマーキングするみたいに身体を擦りつけられた。
私も、全身の空気を入れ換えるかのように彼の匂いを吸い込む。

「……炯さんの匂い、好き……」

凄く安心するし、それに。
――酔ったみたいに頭がくらくらする。

「ん、俺もこの香水の匂い、好きなんだよな」

仕上げなのか、つむじに口付けが落とされた。

「んー、香水の匂いだけじゃなくて、……炯さんの匂い?がするんですよ」

香水なら彼のいない日、淋しくてこっそり借り、枕に振って抱き締めて寝たことがある。
でもあれはなんか違ったのだ。
ぬくもりがないからだといわれればそれまでだが、たぶん香水と汗のにおいだとかが混ざりあった〝炯さんの匂い〟が私にとって、一番心地いい匂いになっているんだと思う。

「なんだよ、それ」

おかしそうに彼は笑っているが、私も上手く説明できないからいい。

「それで。
抱きつかれただけか?」

「はい。
キス、されそうになりましたけど、携帯が鳴り出して」

あれは本当にいいタイミングだったが、なんだったんだろう?

「腕時計が役に立ったな」

「腕時計?」

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