私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
いまさらながら、ここまで過剰に反応しなくてもよかったんではないかという気がしてきた。
後ろから抱きつかれただけで、それ以外はなにもされていない。
あ、いや、キスはされそうになったが。

「仕事も放り出してきちゃいましたし」

きちんと早退すると報告もせずに帰ってきてしまった。
あのときはいっぱいいっぱいだったとしても、社会人としては失格だと思う。

「大騒ぎじゃないだろ。
その気もない男に抱きつかれても怖いだけだ。
普通の女じゃ男の力には敵わないんだしな」

慰めるように彼が、私の背中を軽くぽんぽんと叩く。

「ひとつ確認するが。
アイツの件は上司に報告したんだよな?」

「……はい。
したんですけど……」

炯さんに、報告はしたが恋愛は個人の問題だと取りあえってもらえなかったと話す。

「なんだよそれ。
その気のない凛音に無理矢理キスしてきた時点で、犯罪だろ。
それを個人の問題?
しかも加害者の元へ被害者ひとりで行かせる?
正気か、その上司」

「いたっ」

彼はかなりご立腹なようで、私を抱き締めている腕に力が入る。
無意識なので加減を知らず、身体に強い痛みが走った。
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