私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
「ちょっと待ってください。
私はここで働きたいなんてひとことも」

「そうだな。
でも、今回の件でわかった。
凛音には俺の目の届くところか、最低でも俺の選んだ、信頼のできるところで働いてもらいたい」

じっと炯さんがレンズの向こうから私を見据える。
その目には私を断らせない、強い意志がこもっていた。
そうやって私の自由を制限されるのが嫌だ。
しかし。

「そうじゃないと俺が、安心できない……」

みるみる彼の目が、泣き出しそうに潤んでいく。

「今日、凛音になにかあったらどうしようと、その顔を見るまで気が気じゃなかったんだ。
どうして俺は、あんなヤツのいる場所へ凛音を行かせたんだと後悔した。
だから」

……ああ。
こんなにも不安な心を抱え、彼は私を待っていたんだ。
もし、また似たようなことがあれば、炯さんはそのときもこうやって自分を責めるのだろう。
だったら、これくらい飲み込める。

「わかりました。
でも、同じ職場はダメです。
……炯さんに見蕩れて、お仕事にならなくなっちゃいますから」

「そうだな。
俺も凛音を可愛がりたくて仕事にならないもんな」

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