私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
『コンプライアンス!
社外秘!
パソコンの画面なんてのぞき見できるからな。
フリーWi-Fi使ってデータ抜くなんて簡単だ。
漏洩は重大な契約違反で、莫大な違約金とともに信用も失墜だがいいのか?』

などと脅されたら、もう外で仕事をしようなんて気は起こらなかった。

その忙しい仕事も、どうも今週いっぱいらしい。
今週から新規採用された人が働き始め、少しずつ減ってきている。
このあとは仕事が決まるまで、私がお小遣い稼ぎができる程度に仕事を回してくれると炯さんは言っていた。

「休憩……」

腕を伸ばし、凝り固まった身体を解す。
携帯を持ち、自室を出た。
キッチンへ行き、炭酸水のペットボトルを掴む。

「あらあら。
お持ちいたしましたのに」

冷蔵庫の前で立ったまま炭酸水を飲んでいる私を、通りかかったスミさんはおかしそうに笑った。

「これくらい、自分でしますよ」

こんなことくらいでわざわざ、他人の手を煩わせる必要はない。
実家ではそれが、普通だったけどね。

「ミドリさんは?」

「そろそろ……あ、ミドリさん」

「はい」

今度はミドリさんがキッチンへやってくる。

「お散歩行きたいんですけど、いいですか?」

「はい、いいですよ」

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