私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
炯さんからは私が寝ていたあいだに、無事に向こうを発ったと連絡が入っていた。

「おかしくないですか……?」

夕方、スミさんに着付けてもらい、全身を鏡で確認しながら不安になる。
赤の椿柄の浴衣に黒の帯は、私の希望どおり落ち着いて見えた。
さらに赤の帯締めと、そこに通る赤椿の帯留めがそれを引き立てる。
髪も若奥様風に夜会巻きベースで結ってもらったし、メイクも少し、年上に見えるようにしてもらった。
できあがった私はいつもよりも何倍も綺麗で、反対にやり過ぎなんじゃないかという気がしてくる。

「お綺麗でございますよ。
これなら坊ちゃまも、惚れ直すこと間違いなしです」

「いたっ!」

丸まった背中を伸ばすように、彼女が私の背中を叩く。
それで、自信がついた。

今日はミドリさんの運転ではなく、タクシーで待ち合わせ場所へと向かう。
待ち合わせは私ひとりではなく、ミドリさんも一緒だ。
私ひとりだとまた、変な虫が寄ってくると困る……だ、そうだ。
私もナンパなんかされると困るしね。
しかし。

タクシーを降り、待ち合わせの像の前に一緒に立つミドリさんをちらり。
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