私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
花火の時間が近づいてきたからか、屋台の人出が増えてきて、歩くのもままならないほどだ。

「炯さん、……あれ?」

気になる屋台を見つけて横を見るが、炯さんがいない。

……マズい、はぐれた。

まわりをきょろきょろと見渡すが、見つからない。
それどころか立ち止まっているだけで邪魔そうにぶつかられ、そのままさらに人並みに流される。
そのままもう少し流され、人の少なそうな場所を見つけて横へと逸れた。
屋台の裏手にあるそこは鬱蒼とした森の際になり、すぐ傍に神社の倉庫なのか小さな小屋があった。
その壁に寄りかかり、一息つく。
そこでようやく、携帯が鳴っているのに気づいた。
きっと、炯さんからだ。

「はいはい!」

慌てて荷物を持ち替え、バッグから携帯を出し、耳に当てようとしたとき。

「凛音?」

声をかけられて、固まった。
この独特の発音は、炯さんじゃない。
――彼、だ。

『こんなところで会うなんて、偶然だね』

彼はにこやかに笑いながら近づいてくるが、偶然なはずがない。
日本の祭りが珍しくてきたとは考えられるが、彼は屋台のほうからではなく、森のほうからやってきた。
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