私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
第九・五章 俺が手を離さなければ
「凛音?」

少し先を歩く凛音を、しっかり目で追っていたはずだった。
しかし、子供にぶつかられて対応しているうちに、その姿が見えなくなっている。

「……ったく」

あれだけ、離れないように言ったのに。
いや、俺が手を、目を離したのがいけないのだ。

そのあたりに目を配って探したが、見当たらない。
人出も増え、身動きも取りづらくなってきた。
もしかしたらかなりの距離を流されているのかもしれない。
とりあえず少しそのまま流され、抜けられそうなところで屋台の裏に出た。
そこで凛音へ電話をかける。
しかし、出ない。
この人混みだ、気づいていないのかもしれない。
それでも鳴らし続けると、しばらくして繋がった。

「凛音?」

呼びかけるが、返事はない。
けれど、ただならぬ気配は察した。

「凛音!」

もう一度呼びかけるが、やはり返事はない。
通話を切ると同時に、彼女に非常事態が起きているのだと通知が来た。
迷うことなく携帯を操作し、あたりに耳を澄ます。
しかし、あれほどけたたましい警報は少しも聞こえなかった。

……もしかして、壊された?

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